自閉症の原因とされる遺伝子の種類
自閉症の原因とされる遺伝子の種類
自閉症とは先天的な脳機能または中枢神経の異常が原因と考えられている症状です。先天性で有るということは、生まれた時から既に影響が存在するというという意味であるため、遺伝子の異常などが原因と考えられています。
しかし、今現在では決定的な原因となる遺伝子は特定されておらず、脳や神経の発達や維持に関連する遺伝子や、脳内の情報伝達物質に関連する遺伝子が、単独または複数が関連しているとされ研究や調査が様々な機関で行われています。
遺伝子とは
遺伝子とは遺伝現象により親から子供へと伝わる身体を構成する情報で、染色体に存在するDNAの塩基配列に含まれています。
人間の遺伝子は全て実在が確かめられておらず、現在では2万2千個から2万3千個有るとされています。
遺伝子に異常が有ると様々な病気の原因となります。自閉症も何らかの遺伝子の影響により発生していると考えられています。
自閉症の原因とされる遺伝子
自閉症の原因とされる遺伝子はまだ特定には至っていませんが、研究や調査などにより何らかの関連が見られると報告されている遺伝子について調べてまとめてみました。
CHD8遺伝子
CHD8遺伝子は細胞内の染色体の構造を変化させる働きを持ち、関連する遺伝子の量を調整する機能を持つ遺伝子です。自閉症においてはCHD8が変異することで、RESTと呼ばれるたんぱく質が活性化し神経の伝達に遅れが出たり異常が発生すると考えられています。
2016年9月に九州大学生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授らのグループが、CHD8の変異により自閉症が発生するメカニズムを解明しました。
自閉症の発症メカニズムを解明
自閉症者の場合、父方由来か母方由来のCHD8遺伝子のどちらか1つが欠損している「半欠損」である事が多く、九州大学のグループはCHD8遺伝子を人工的に半欠損させたマウスを作成し観察したと事、他のマウスとのコミュニケーションの変化など自閉症と似た症状を観察することが出来たと報告しています。
FOXG1遺伝子
FOXG1遺伝子は14番染色体長腕に位置しており、詳しい機能や働きはまだ完全に解明されていませんが、大脳新皮質と呼ばれる思考や言語をつかさどる部分の発達に関係がある遺伝子とされています。
2015年にはアメリカのイェール大学により、FOXG1遺伝子が自閉症などの病気と関連を発見した報告が有りました。
Making ‘miniature brains’ from skin cells to better understand autism
FOXG1遺伝子に異常が見られる場合には自閉症以外にも「小頭症」「大頭症」「各種脳の奇形」「レット症候群」などの症状の原因の一つと考えられています。特に「レット症候群」との関連は強く患者の多数でFOXG1遺伝子の欠損が見られています。また、欠損以外にFOXG1遺伝子が重複することでも「知能の発達不全」「言語障害」「各種てんかん」が見られるため、FOXG1遺伝子が脳の発達に大きく影響している事がわかっています。
PX-RICS遺伝子
PX-RICS遺伝子は、脳の神経細胞の活動を抑える神経伝達物質(GABA受容体)の運搬に関連する遺伝子です。
2016年3月に東京大学分子細胞生物学研究所の中村勉講師と秋山徹教授らの研究グループは、PX-RICSがヤコブセン症候群患者(Jacobsen 症候群:11q欠失症候群)に発生する自閉症の原因であると特定しました。
自閉症の原因となる遺伝子を特定
この東京大学の研究ではマウスのPX-RICSを欠損させたところ、「他のマウスへの興味の低下」「泣き声でのコミュニケーションの低下」「反復行動の増加」「習慣へのこだわり」など自閉症と同様な行動を観察することが出来たと報告しています。
CTNND2遺伝子
CTNND2遺伝子は、脳組織において細胞と細胞を結びつける役割を持つ「δ–カテニン(デルタカテニン)」というたんぱく質と強く関連する遺伝子です。
2015年3月にアメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究グループは、重度の女性の自閉症患者13名を調査したところCTNND2遺伝子に突然変異が見られる事を発見しました。その後、過去の数千件のデータと比較し、ゼブラフィッシュとマウスでCTNND2遺伝子の変異を促す実験を行ったところ、脳の長期記憶に使用される海馬のニューロンの動きが低下したと発表しました。
Loss of δ-catenin function in severe autism.
Scientists may have identified a gene that causes severe autism in women
CAPS2遺伝子(CADPS2遺伝子)
CAPS2遺伝子(CADPS2遺伝子とも呼ばれる)は、脳内の神経細胞での神経栄養因子の分泌に係わっている遺伝子です。CAPS2遺伝子に異常が見られると一部のアミノ酸が欠損した栄養因子が精製されますが、特定のアミノ酸が欠損した栄養因子は末端のシナプスまで運ばれないため、神経回路の形成異常へと繋がります。
2007年3月に独立行政法人理化学研究所 理研脳科学総合研究センターの分子神経形成研究チームでは、CAPS2遺伝子を欠損させたマウスを作成し研究を行ったところ、「神経回路の形成」「記憶や学習機能の調整」を行う脳由来神経栄養因子であるBDNFの分泌が著しく減少することを発見しました。
また、マウスの動きを観察したところ、社会相互作用の低下、子育ての放棄の増加、多動の増加、新環境適用能力の低下などが見られたと報告しています。
SHANK遺伝子
SHANK遺伝子は数多くのアミノ酸を含む足場タンパク質(複数のたんぱく質を同時に結合することで細胞内での動きやシグナル伝達の効率を変化させるたんぱく質)で、SHANK1からSHANK3までの種類が有ります。
SHANK1遺伝子を欠損させたマウスは「行動力低下」「空間記憶の低下」等が見られ、SHANK2遺伝子を欠損させたマウスでは「多動性の増加」「不安や行動異常の増加」などが見られるとの研究報告が有ります。
自閉症の原因因子の一つ「Shank」のシナプスでの機能を解明
ニューロリギン(Neuroligin)
ニューロリギン(Neuroligin)とはたんぱく質の一種で、シナプスの成長や機能の調整を行います。
ニューロリギンにはNeuroligin-1からNeuroligin-4まで4種類あり、それらを含む遺伝子はそれぞれ「NLGN1(Neuroligin-1)」「NLGN2(Neuroligin-2)」「NLGN3(Neuroligin-3)」「NLGN4(Neuroligin-4」となっています。
自閉症との関連は、NLGN3遺伝子とNLGN4遺伝子が大きく関係しているとされ、ニューロリギン3や4を欠損させたマウスによる実験では社会的行動に障害が見られると報告されています。
自閉症に関連するタンパク質Neuroliginの神経活動に依存的な代謝はニューロンのシナプス形成を制御している
Autism-associated neuroligin-3 mutations commonly disrupt tonic endocannabinoid signaling.
記者会見「自閉症関連分子Neuroliginの神経活動依存性代謝が神経細胞シナプス形成を制御する」
ニューレキシン(Neurexin)
ニューレキシンとはたんぱく質の一種で、シナプスの構築や神経伝達物質の放出の調整などを行います。
ニューレキシンにはNeurexin-1からNeurexin-3までの3種類があり、それらを含む遺伝子はそれぞれ「NRXN1(Neurexin-1)」「NRXN2(Neurexin-2)」「NRXN3(Neurexin-3)」となっています。
自閉症者の中にニューレキシン1とニューレキシン2の変異が見られる事が有り、ニューレキシンは自閉症の要因の一つであると考えられています。
Truncating mutations in NRXN2 and NRXN1 in autism spectrum disorders and schizophrenia.
CDH10遺伝子、CDH9遺伝子
細胞同士を結合する効果を持っています。これらの遺伝子に影響が有ると脳細胞同士の結合も弱くなり、情報伝達がスムーズに行えなくなります。
Common genetic variants on 5p14.1 associate with autism spectrum disorders
SEMA5A遺伝子
神経回路形成時の誘導を行います。
onstitutional downregulation of SEMA5A expression in autism
RELN遺伝子
神経細胞の発達の際の位置などを制御します。
Analysis of reelin as a candidate gene for autism
Reelin gene alleles and haplotypes as a factor predisposing to autistic disorder
Reelin gene alleles and susceptibility to autism spectrum disorders
MET遺伝子
細胞の分裂・増殖・接着・免疫などに関連する情報伝達を行います。ガンなどの際に過剰に活性化する事もあり、ガン細胞増殖の要因遺伝子でも有ります。
PTEN遺伝子
体内の様々な酵素や受容体の活性化や非活性化を行います。この機能に異常があると小脳や海馬でのエネルギー発生に異常がおきて、社会的行動や認知の問題が出るため自閉症などの原因遺伝子の一つと考えられています。
ITGB3遺伝子
細胞同士を結合する効果を持っており、神経伝達物質であるセロトニンを伝達する役目も担っています。
自閉症におけるセロトニン伝達系機能異常の機構解明(PDFファイル)
CNTNAP2遺伝子
脳の神経細胞同士が情報交換を行う際に必要となるたんぱく質の生成や、神経細胞自体の発達に関連する遺伝子です。
What does CNTNAP2 reveal about Autism Spectrum Disorder?
AVPR1A遺伝子
バソプレシンと呼ばれる体液の循環などの維持を行うホルモンの受容体の一種の遺伝子で、バソプレシン受容体は大脳皮質や海馬などに多く存在しています。バソプレシンの分泌量が変化すると記憶力の低下や社会的脳能力の低下などが見られ、自閉症だけでなく「うつ病」「不安障害」「摂食障害」「統合失調症」などとも関連が有ると考えられています。
GABRB3遺伝子
脳の神経細胞の活動を抑える神経伝達物質(GABA受容体)の運搬に関連する遺伝子です。この遺伝子に異常が有る場合は自閉症だけでなく「アンジェルマン症候群」「プラダー・ウィリー症候群」などにも関連すると考えられています。
Association between a GABRB3 polymorphism and autism.
関連ページ
プラダー・ウィリー症候群とは | 発達障害-自閉症.net
EN2遺伝子
主に中脳から後脳の境界付近の発達に関連する遺伝子です。
Association of the homeobox transcription factor, ENGRAILED 2, 3, with autism spectrum disorder
TSC1、TSC2遺伝子
TSCはハマルチンタンパク質と呼ばれるを生成し、TSC2はツベリンタンパク質を生成する遺伝子です。主に結節性硬化症の原因の遺伝子としても知られています。
また、これらの遺伝子に異常があると、「自閉症」「てんかん」「精神遅滞」「皮膚の異常」などの原因になると考えられています。
Autistic-like behaviour and cerebellar dysfunction in Purkinje cell Tsc1 mutant mice.
RBFOX1遺伝子
RBFOX1遺伝子は「A2BP1」「HRNBP1」などの名称でも表記され、RNA結合タンパク質と呼ばれる種類のたんぱく質に関連しています。
RBFOX1は自閉症と関連すると考えられているほか、異常が発生することで「脊髄小脳失調症2型」の原因の一つともなります。
Cytoplasmic Rbfox1 Regulates the Expression of Synaptic and Autism-Related Genes
MECP2遺伝子
レット症候群の原因となる遺伝子です。レット症候群と自閉症の特徴が似ていることから、MECP2遺伝子に異常が発生すると自閉症にも影響が出ると考えられています。
FMR1遺伝子
この遺伝子は「脆弱X症候群」の原因となる他、「自閉症」「精神発達遅滞」「パーキンソン病」「早発卵巣不全」との関連も指摘されています。
関連ページ
脆弱X症候群(フラジャイルエックス症候群)とは | 発達障害-自閉症.net
OXTR遺伝子
神経伝達物質であるオキシトシンを受け取り認識するオキシトシン受容体の遺伝子です。
SLC6A4遺伝子
脳の神経伝達物質であるセロトニンを生成する遺伝子です。
まとめ
自閉症に関連する考えられている遺伝子をまとめてみました。
しかし、今現在では自閉症の原因となる遺伝子の特定はされておりません。自閉症にも自閉症スペクトラムのように様々な症状や特徴が見られる為、単独の遺伝子ではなく複数の遺伝子が関連しているとも言われています。
今後も研究が進み、自閉症の原因となる遺伝子が特定される日が来ることを願っています。