発達障害の子は衣服の毛玉や糸のほつれを気にして引っ張ってしまう
発達障害の子は衣服の毛玉や糸のほつれを気にして引っ張ってしまう
発達障害の子は自分の服の糸のほつれをとても気にして引っ張ってしまったり、毛玉を見ると全部取らなくては気がすまないという特徴を持っていることもあります。
毛玉や糸のほつれも自分の服だけならともかく、場合によっては他人の服のまで気にしたり、畳んで置いてあった衣類のまで確認することも有ります。
ではこのような特徴のある子は、なぜ毛玉や糸のほつれが気になるのでしょうか。
発達障害の子が毛玉やほつれを気にする理由
発達障害の子が衣服の毛玉やほつれを気にしてしまう理由には、その障害の特性などの背景があります。
感覚過敏から
発達障害の子には様々な感覚が非常に敏感となる『感覚過敏』という特徴を持っている場合が多いです。
代表的なのは聴覚が過敏になる『聴覚過敏』、食べ物の味や食感が過敏になる『味覚過敏』、肌に触れる感覚が過敏になる『触覚過敏』などがあります。
この中でも『触覚過敏』になると、ちょっとした刺激でも痛いと感じたり、物に触れる感覚に気持ち悪さを抱くことがあります。
健常者であれば毛玉や糸のほつれが体に当たっても、苦痛を感じることは無いと思いますが、感覚過敏を持っていると毛玉をチクチク痛いと感じたり、糸のほつれに対して強い不快感を抱いてしまいます。
場合によっては毛玉やほつれが触れている事自体が気になってしまい、他のことに集中できないと言う事があります。
実際に触覚過敏の子は感覚から衣服にこだわりを持つこともあり、服のタグが皮膚に当たるのを嫌ったり、袖口のゴムの締め付けが痛いと感じたり、ナイロンやビニール製のシャカシャカしたものやスベスベした服を嫌がる事もあります。
変化を嫌がるため
発達障害の子の大きな特徴に『変化を嫌がる』というものがあります。
特に自閉症の子の場合には変化をすることを嫌ったり、物事が同じであることに対して強いこだわりである『同一性の保持』という特徴を持つことがあります。
発達障害の子は状態の変化や変更に対して対応を取るのが難しいため、自分の思うとおりでない変更は嫌がる傾向が多いです。
特に見通しのつかない事、急な変更、予期せぬ出来事に対しては強い不安やストレスを感じ、場合によってはパニックになることもあります。
発達障害の子が変化を嫌がるのには物事を想像するのが苦手で、今後のことを予想したり理解するのが難しい事、物事に対しての対応経験が少なく咄嗟に対処が出来ない事、成功経験が少なく失敗するのが怖いなどが考えられます。
そのため、現状維持である状態を好み、変化や変更に対しては不安を感じているのです。
衣服の毛玉や糸のほつれについてですが、これも衣服の状態の変化で有るとも考えられます。
『前回は毛玉が無かったのに今回は毛玉が有る』『毛玉の数が増えた』『服がほつれ糸が出てきてしまった』『ほつれた糸が長くなった」・・・これらは私たちからすればたいしたこと無い出来事ですが、発達障害の子供にとってはとても大きな変化と感じる事があります。
そのために今までと同じような毛玉やほつれの無い状態にしようと、毛玉を必死で取ったり、糸のほつれをハサミで切ろうとする行動を取ってしまいます。
細かい部分に注目するため
物事を全体として大まかに見るのは苦手ですが、細かい部分に注目したりこだわったりするのは発達障害の特徴のひとつです。
発達障害の人の特徴として『人の顔を覚えられない』という事があります。
この特徴の原因も様々な背景があるのですが、理由のひとつとして、人全体や顔全体を意識するのが難しく、そのときの服の色や話した話題の一部分などの細かい点しか覚えていないという事が有ります。
発達障害の子供においては車のおもちゃで遊ぶ際に、全体を見て車として遊ぶのではなく、一部分のタイヤだけに着目しタイヤだけを回して遊んだり、ドアの部分だけを見て開けしけして遊ぶという特徴が見られます。
好きな物事に関しても同じで、興味があることに対してはとても些細な事でも覚えていたり、とても細かい部分に関しての知識が豊富と言う事も多いです。
衣服についても毛玉や糸のほつれの様に細かい部分に気がつきやすかったり、細かな部分が気になるとその点に意識が集中してしまいます。
なお、この細かい部分に注目するというのは長所でもあります。
発達障害の人が研究者となって新たな発明や発見をするのも、健常者では気がつかないようなとても細かい点の違いに着目するからだと言われています。
衣服の毛玉や糸のほつれが気になる子への対処方法
衣服の毛玉や糸のほつれが気になる子に対しては、注意を別の方に向けたり、衣服の毛玉やほつれを事前に取っておくなどの対処方法があります。
衣類から注意をそむける
衣類の毛玉や糸のほつれに注意が向きやすい子には、別のことへと意識を向けさせるように誘導したり声をかけることが有効です。
好きなことや集中して行える事がある場合には、そちらの活動を進めてみるとよいでしょう。
手持ち無沙汰や暇になると手癖のように毛玉を毟ったり、糸のほつれを引っ張ってしまう事もあります。
このような場合には好きな話題を提供して会話などのコミュニケーションを取る、課題などを出す、遊びに誘う、お手伝いを頼むなど、暇が潰せるような事を提供するのも効果があります。
衣類を着替えさせる
毛玉を取り始めると全部取り終わるまで気がすまなかったり、糸のほつれをどんどん引っ張って衣服がボロボロになってしまうこともあります。
子供が毛玉や糸のほつれが気になった際には、取る行動に出る前に衣服を着替えさせてあげるのもよいでしょう。
感覚過敏から毛玉やほつれを気にしてしまう子の場合、毛玉やほつれの当たる感覚を不快に感じていることも多いので、服を着替えさせることは子供を落ち着かせるためにも効果的です。
自分から服を着替えられる子は毛玉やほつれが気になったら、自分で着替えてよいことを伝えてあげましょう。自分から着替えることができない場合には、子供の様子をみて周囲の大人が服を交換させてあげる必要があります。
不安を取り除く
衣類に毛玉や糸のほつれができてしまったことで、状況が変わったと感じ不安になってしまう子の場合には不安を取り除く事が重要です。
不安の取り除き方にはいろいろありますが、「毛玉やほつれが出来ても状況や環境は変化していないこと」「不安を感じなくても良いこと」を伝えたり、「毛玉やほつれが出来た際の対処法」「衣類の見た目が変わった場合の見通し」「誰かに助けを求めたり不安を伝える方法」などを教える事も効果的です。
衣類の状況の変化で不安を感じている場合には「何が不安なのか」や、子供本人が「どのように対処をしたいのか」を聞いてみるのもよいでしょう。
毛玉取り機を使う
毛玉が気になってしまう子の場合には、事前に毛玉取り機を使って毛玉を取っておくのも効果的です。毛玉取り機は電動のものでも1000円前後と比較的安く売っているので、1つ持っておくと良いかと思います。
毛玉取り機を使えば人が取りにくい小さな毛玉も取ってくれ、感覚過敏の子が着ても不快を感じることが少なくなります。
毛玉は洋服の生地の繊維と繋がっているため、引っ張って取ってしまうと、生地の繊維も毟られて衣服が悪くなってしまいます。
そのため、子供が毛玉を引っ張って取ろうとした際には、毛玉取り機を使うように声をかけましょう。
自分で毛玉取り機で毛玉を取ることで納得ができますし、今後は毛玉取り機を使えば良いのだと学習することにも繋がります。
毛玉のつき難い衣服を用いる
毛玉のつき難い衣服を用いるのも方法のひとつです。
毛玉は繊維の強いアクリルやポリエステルの素材の衣類に出来やすく(毛玉として残りやすく)なります。逆に繊維の弱い綿やウールも毛玉はできますが、繊維が弱いため千切れて毛玉としては残ることが少なくなります。
そのため、毛玉ができても残り難い綿やウールやシルクなどの衣類を選ぶという方法もあります。
なお、主な素材が綿やウールなどでも、アクリルやポリエステルの入った混合素材の場合には、毛玉ができやすくなるので注意が必要です。
毛玉やほつれを取ってよい衣服を決める
毛玉やほつれが気になって取り切るまで納得がいかなかったり、人の衣服や置いてある衣類の物まで取りたがる場合には、取っても良い衣服をルールとして決める方法もあります。
発達障害の子は明確な決まりごとやルール化されたものは、意識し守りやすくなります。
ルールとしては『自分の着ているものだけ』『一着だけ』などにしましょう。
また毛玉のついた衣類が目に入ると気になってしまうという子の場合には、使わない衣類は衣装ケースやクローゼットなどに片付け、子供から見えないようにしましょう。
まとめ
発達障害の子供はその特性から、衣服の毛玉や糸のほつれを気にして引っ張ってしまうことがあります。
その理由は『感覚過敏』『変化への不安』『細部に気が向いてしまうため』などさまざまで、子供によってはそれ以外の背景があるかも知れません。
まずは子供がどのような理由から、毛玉や糸のほつれを気にしているのかを知ることが重要となります。そして、その状態や子供の発達状態などから適切な対処を取ってあげましょう。