自閉症者や知的障害者が電車や鉄道を好きな理由

   2018/03/21

自閉症者や知的障害者が電車や鉄道を好きな理由

障害を持つ子供と接していると、電車が好きな子供や、駅名や路線に強い興味を示す子供を目にする事が有ります。障害を持った子供の多くが鉄道に興味を持っているわけでは有りませんが、それなりに数が多いと感じます。

実際に電車に乗っていると、知的障害や自閉症と思われる人を見かけたり、ネットなどでも知的障害者と電車がセットになって語られてるページを目にする事が有ります。

では、実際どのような理由から自閉症などの発達障害者や知的障害者が電車を好きになるのか。逆に、電車の中で障害者が目立ってしまい目に付きやすい理由などを調べてまとめてみました。

なお、鉄道が好きだからと言って必ずしも何かの障害が有る訳ではなく、逆に障害を持っていても鉄道に全く興味の無い人もいます。

自閉症や知的障害者が電車を好きになる理由

実際に自閉症者や知的障害者が鉄道や電車を好きになる理由を調べてみました。
なお、障害者が鉄道を好む事に関する研究などは見当たらなかったので、自閉症や発達障害の特徴などを理由に調べています。

重ね重ねになりますが、以下の電車を好む理由に当てはまるからといって、障害を持っているわけではなく、逆に鉄道に全く興味の無い障害を持つ人もいます。

男の子は乗り物が好き


基本的に男の子は乗り物や機械やロボットなどに興味を持つ場合が多く見られます。そのため、自閉症や発達障害の子供も一般的には乗り物などを好む傾向に有ります。

乗り物の中でも飛行機やロボットなどに比べて、自動車や電車は生活の中で見たり利用する機会も多いので、自然と電車やバスなど身近な乗り物への興味が深まります。

子供向けの電車グッズなども多く見られ、本には「きかんしゃトーマス」などの絵本や各種電車の図鑑、おもちゃには「プラレール」等が有ります。

障害を持った人は障害による行動の制限から、様々な経験を得る機会が少なくなってしまう傾向が有ります。小さい頃に電車に乗って楽しかった思い出が強く、それ以上の刺激や快感を得る機会が無いと、大人になっても電車に刺激を求めて好きであり続ける事も考えられます。

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規則正しい動きをする

自閉症などの発達障害の子供は、予測をしたり予定にない事柄に対して対応することが苦手です。電車には「時間」「行き先」「線路上を走る」など規則正しい動きをするものが複数含まれており、予定外のことが少ないため、自閉症などの人でも安心して利用できるという理由が有ります。

時間

事故などの場合を除きますが、基本的に電車は時刻表に基づき規則正しい運行を行っています。電車の来る時間、電車の発車する時間、次の駅に着く時間、目的地の駅に着く時間などが定まっており、時刻表、駅や車内の案内図などで確認が行えるので安心して利用することが出来ます。

行き先

電車は出発駅、止まる駅や通過する駅、終点の駅がはっきりと決まっています。行き先も大きく表示されているほか、止まる駅や通過する駅も路線図などで予め確認が出来るので理解もしやすく安心に繋がります。

線路

電車、車、船、飛行機など様々な乗り物の中で、電車が持つ大きな特徴に「線路やレールの上を走る」というものが有ります。線路やレールという決まった場所を走ることで、予想外の動きをせず規則正しい動きをすることで行き先の理解や安心に結びつけることができます。

乗って楽しめる


電車は乗って楽しめるという特徴も有ります。乗る際には目的地へ行くという理由だけでなく、窓から見える景色やその動き、レールのガタンゴトンという音、踏み切りの音、電車の揺れやカーブでの動き、車内放送や車掌のアナウンスなど様々な楽しみ方が有ります。

特に外部からの刺激を得る事が少ない自閉症児や発達障害児にとっては、電車は「音」「声」「動き」「景色」など様々な刺激を得る絶好の機会にもなります。

私達でも電車に乗っていると心地よい揺れで、ついウトウトしたり寝てしまう事も有るので、障害を持つ人達も電車の揺れなどを気持ちが良い刺激だと感じているはずです。

電車への憧れ

電車は沖縄県や離島や山間部を除けば、ほぼ全国各地にある乗りものです。実際に乗ることは無くても目にする機会が多く、障害者にとっても接する事の多い乗り物でも有ります。学校でも社会体験学習や修学旅行などで実際に乗車する事も有ります。

接するという意味では自動車は何処にでもあり、自家用車や送迎バスなど毎日と言っていいほど使用する一番身近な乗り物となります。しかし、常日頃から利用していると特別感がなくなってしまうようで、何かの機会で無いと乗ることの出来ない電車が特別な乗り物として憧れるようです。

鉄道や電車には好む要素が多い

鉄道や電車にはジャンルや人を引き付ける要素が多いように感じます。一言に鉄道と言っても「車両」「路線」「運営会社」「駅」「時刻表」「歴史」「設備」「鉄道模型」「鉄道写真」など、鉄道にあまり興味の無い私がちょっと考えただけでもこれだけ有ります。

鉄道ファンや鉄道オタクの種類にも「乗り鉄(乗車)」「撮り鉄(写真を撮る)」「降り鉄(駅で下車)」「車両鉄(車両の形式や編成など)」「模型鉄(鉄道模型)」「スジ鉄(時刻表)」「駅鉄(駅)」「廃線鉄(廃止された路線)」「配線鉄(線路)」など数多くのジャンルがあるようです。

1つのことでこれだけ人を引き付ける要素を持つ趣味というのはあまり無く、障害を持った人に関わらず多くの人を魅了する理由だと思います。

自閉症などの人に対しては、ロゴマークへの興味から鉄道のマーク、地名などの興味から駅名や路線図、数字などの興味から時刻表や車両の型番や形式番号を好みやすくなるという事も有ります。

駅の案内放送などが好き

障害を持った子供に限らず、子供はCMやアニメの台詞など、耳障りの良い言葉を真似したり覚えます。

そのため駅員さんや車掌さんの「毎度ご乗車ありがとうございます。この電車は何々駅発、何々行きの電車です」「次は何々駅に止まります」などの案内放送の興味を持つ事も有ります。特に駅や電車の案内放送は、毎回決まった言葉を話すので変化が無く安心して聞けるだけでなく、何度も聞くうちに自然と覚えてしまうという事もあるようです。

電車内で車掌さんのアナウンスを真似をする人を「セルフ車掌」と言うようですが、このような人も駅の案内放送や、車掌さんの仕草などが好きで憧れを抱いているのだと思います。

障害者が鉄道が好きと思ってしまう理由

今までは自閉症などの発達障害者や知的障害者が電車を好む理由を書いてみましたが、逆に意識をしなくても障害者と鉄道を結びつけてしまう可能性のある事柄についてもまとめてみます。

利用者が多いので確率的にも多くなる

電車内や駅構内は多くの人が集まり、人口密度が高くなる場所でも有ります。そのため単純に人が多いことで、障害者の数も多くなるという事が考えられます。また、運賃が安い公共の乗り物であるので、移動手段として電車を使う障害者も多くなります。

ちなみに日本で1年間に電車を利用した人の延べ人数は、国土交通省の平成27年度の鉄道輸送統計調査によると、鉄道の乗客の総数は242.9億人(JRで93億人、民間鉄道で149.8億人)と、合計で見るとかなりの人数となっています。

日本の人口が約1億2000万人であるため、単純に割ると一人当たり年間202回も電車に乗っている計算になります。

鉄道ファンの人数自体が多い

鉄道ファンの人数を正確に調べた調査は無いようですが、日経のサイトによると野村総合研究所の調べで鉄道ファンは150万人から200万人いると見られているようです。

そのため、上記の鉄道の利用者数と同様に分母数が大きいので、単純に鉄道ファンや鉄道オタクの中の障害者の数も割合から見ても多くなります。

障害者でも利用しやすい

電車や駅構内はバリアフリー化が最も進んでいる施設でもあります。

ぱっと思いつくだけでも、優先席、エレベーター、障害者用トイレ、色分けされた路線、見やすい時刻表や案内、音声案内、視覚障害者誘導用ブロック、点字案内、歩きやすい通路やホームなど。駅にも筆談用の道具が有るほか、駅員さんも車椅子や高齢者の人の乗り降りの手助けを行ったり、様々な障害に対する基本的な知識などももっています。

そのため、様々な種類の障害を持った人でも利用が容易で、知的に障害があっても鉄道というシステムが分かりやすく利用が簡単であるという理由も有ります。

障害者割引がある

大多数の鉄道会社では、障害者が電車を利用する際の運賃に割引制度を設けています。市区町村などによっては交通の便や行政運営の鉄道や地下鉄などの関係から、鉄道利用時の補助が出る事も有るようです。

JR東日本では身体障害者手帳または知的障害者手帳の「旅客鉄道株式会社旅客運賃減額欄」に「第1種障害者」または「第2種障害者」に記載が有る場合に運賃の50%割引などの制度を設けています。

JR東日本:障害者割引制度のご案内

障害者が目立ってしまう

電車内では必然的に障害者が目立ってしまうので、無意識のうちに「電車には障害者が多い」と思い込んでしまう事も有ります。電車内でなぜ障害者が目立つかと言うといくつかの理由が考えられます。

優先席や車椅子エリアなどが明確に決められていたり、乗降の際に駅員さんや係員さんに補助をしてもらう事があるため目に付きやすいという点が有ります。

また、街中などでは障害者とすれ違っても気が付かず通り過ぎてしまう事も多いでしょうが、電車では車両内という狭い空間にお互いが一定の時間いるため、目に入りやすく気が付きやすいという事も考えられます。

あまり良い話ではありませんが、電車内に大きな声を発する知的障害者の人などが乗ると、周囲の人がビックリして移動をしたり、周りの人が避けてしまい空間ができるので目立ってしまうという場合もあるでしょう。

場の空気や雰囲気を読むのが苦手

自閉症などの発達障害を持つ人は、周囲の様子や雰囲気をつかむのが苦手であると特徴が有ります。電車は静かに乗るという暗黙のマナーが有りますが、それを感じ取るのと実践するのが難しい人もいます。

場合によっては大好きな電車に乗ることが出来たので、嬉しくなりテンションが上がり体が動いてしまったり、色々と口に出して喋ってしまい結果として目立ってしまうという事が考えられます。

まとめ

電車や鉄道はレールの上を規則正しく走り、決まった時間に決まった動きをするので、予想や変化が苦手な自閉症など発達障害の人でも安心して利用できる乗り物です。

また、バリアフリー化の進んだ公共の乗り物という事から、障害を持った人も含め多くの人が利用します。そのため、障害を持った人を見かける事が多くなり、無意識のうちに「電車で障害者を目にする事が多い」=「障害者は電車が好きだ」と思い込んでしまう事も有ります。

興味という面においては、鉄道には多くの要素が含まれているため、障害者も含めて多くの人を引き付ける魅力が有ります。

鉄道に興味を持った場合には、時間、地名や場所、運賃からお金の計算など、鉄道から様々な分野へと興味の幅を持たせてあげると良いかと思います。

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