自傷行為の原因と対処法 – 自閉症と発達障害の特徴・特性

   2017/07/02

自傷行為の原因と対処法

自閉症などの発達障害を持った子供の特徴に自分の体を傷つけてしまう「自傷行為」というものがあります。
普通に考えると自分を傷つけたりすると、痛みを感じたり怪我をしてしまったりと良い行動ではありません。

しかし、自閉症や発達障害を持つ子供は自傷行為を行うことが多々見られます。では、なぜ自傷行為を行うのでしょうか。様々な理由などを調べてまとめてみました。

自傷行為とは

自傷行為とはその名前のとおり、自分の体を叩いたり噛んだりすることで傷つける行為です。

自閉症や発達障害だけでなく、統合失調症、うつ病、心的外傷後ストレス障害などでも見られる事のある行動です。一般的な自傷行為の原因はストレスや精神疾患が考えられています。

一般的な自傷行為には手首を切る「リストカット」や、頭を叩く、腕に噛み付くなどがあり、突発的に行ってしまう事が多いようです。

自閉症に見られる自傷行為の種類

自閉症に見られる自傷行為には、以下のものが代表的です。

  • 頭や顔を叩く
  • 手や足を叩く
  • 自分を噛み付く
  • 首や手足を引っかく
  • 壁や地面に頭を打ちつける
  • 髪の毛を引っ張ったり、むしり取る
  • 爪を噛んだり、ささくれを毟る
  • 目に指を入れる
  • 倒れこむ
  • 唇や口内を噛む
  • 物で自分を叩いたり刺したりする

自傷行為も軽度のものから、出血を伴う怪我になるものまで様々見られます。
頻繁に自傷行為を行う場合には、叩いたり噛んだりした場所が痣(あざ)となったり、噛んだ場所がタコのように硬くなる場合もあります。

また、頭や顔面を叩く場合には、その箇所が凹んでしまったり、形が変形してしまうほど強く自傷をする事もあります。

自傷行為を行う理由

自傷行為を行う理由にはストレスや不安によるもの、意思を通そうとして行う場合、コミュニケーションの問題、感覚遊びとして行う場合などがあります。

ストレスや不安による自傷行為

「怒られた」「叩かれた」「嫌な音が聞こえた」「予定が変わった」「不快な気分になった」など様々な理由によりストレスや不安が原因で自傷行為を行う場合があります。

自閉症や発達障害の子供は、極度のストレスや不安を感じた際に対処方法がわからなくなり、自分でもどうして良いのか分からず、パニックとなって自傷行為や他人への危害などに繋がります。

ストレスにより自傷行為を始めてしまった場合には、ストレスを取り除く必要があります。別室に連れて行きクールダウンをさせる、好きなものを手渡して気持ちを切り替えるなどの方法が効果的です。

自傷行為を行っている時に近くに人が居ると、その人に手を出してしまう他害・他傷行為につながる場合もあるため、出来るだけ他の人の居ない場所に移動をさせるか、他の人を移動させる事も重要になります。

感覚遊びとして

自閉症や発達障害の子供は、感覚が敏感だったり逆に鈍かったりする事が有ります。そのため、通常の人が痛いと思うような事でも、心地よいと感じて楽しんで行ってしまうことが有ります。

特に感覚が鈍くなる「感覚鈍麻」の特徴を持っていると、日常の生活の中で感じる刺激が少なくなってしまうので、自分で感覚を取り入れようと頭を壁などに打ちつけたり、自分の体を叩いたりすることがあります。外部から感じる刺激が少ない子は、体を前後に動かす常同行動をとったり、その場でグルグル周ったりと様々な感覚を取り入れようと、自閉症の特徴に見られる行動をとる事があります。

感覚遊びが好きな子供の中には、自分で頭を叩いたり、自分で腕を噛んだりしてしまう場合があります。周囲の人から見てかなり痛そうに行っている場合でも、本人は楽しんだりしています。

感覚遊びとして行っている場合には、叩いたり噛んだりではなく、マッサージやくすぐるなど、別の感覚を与えることが効果的です。

関連ページ
自閉症の感覚鈍麻とは| 発達障害-自閉症.net

関連ページ
自閉症の感覚過敏とは| 発達障害-自閉症.net

嫌な感覚を打ち消そうとして

上記の項目にも書きましたが、自閉症の子供は感覚が敏感になる「感覚過敏」と言う特徴を持つことがあります。
感覚過敏だと健常者で何も感じないような刺激でも、強い刺激や痛い刺激だと感じ取ってしまうものです。

代表的な感覚過敏には音が大きく聞こえる、光をまぶしく感じる、手をつながれると痛いと感じるなどがあります。
このような嫌な感覚を感じるとその感覚を打ち消そうと別の感覚を取り入れようとすることが有ります。

聴覚が過敏の子の場合には嫌な音が聞こえると耳を押さえて大きな声を出すことがみられます。これは自分の嫌な音を掻き消そうとする行動でもあり、自傷行為もこのような目的で行われる場合もあります。

自分の気持ちが伝わらない為

自閉症の大きな特徴に「コミュニケーション能力の困難」と言うものがあります。
自閉症の人は言葉を発するのが難しかったり、言葉を話せてもその場面や状況にあった適切な会話をする事が難しい事があります。

そのため、自分の要求や、不快感など思っている事を相手に伝えようとしても上手く伝わらずに、イライラしたりどうして良いのか分からなくなりパニックとなって自分の体を傷つけてしまう事もあります。

周囲の人の気を引こうとして

中には周囲の気を自分に向けさせようとして自傷行為を行う事もあります。
これは自閉症の子供が適切なコミュニケーションを取れないことが原因で、自分の体を傷つけることで周囲の人から「大丈夫?」「止めなさい」などと言われることがコミュニケーションの方法となってしまっているためです。

この場合は「止めなさい」などと注意されることも楽しいコミュニケーションだと認識してしまっているため、声かけや注意は逆効果となってしまいます。そのため、適切なコミュニケーション方法を教えてたり、場合によっては自傷行為自体を無視するなどの対策があります。

意思を通そうとして行う場合

言葉や意思表示の方法が未発達の子供の場合、自分の意思を通そうとして自傷行為を行う場合が有ります。

重度の知的障害が有る場合や、3歳ぐらいまでの幼児の自傷行為には意思を通そうとして、頭を叩いたり地面に頭を打ち付ける事が時折見られます。

幼児ですと言葉で話しかけても自傷行為を止めさせる事は難しいため、抱きしめて自傷行為自体ができないようにすることが重要です。自傷行為を行ってもその都度抱きしめられてしまい頭を打ち付けられないと理解すると、自傷行為を止め別の手段で自分の思いを表現することができる様になる場合も有ります。

こだわりや行動の一部となっているため

自閉症の子供は自分が行う行動が、一連の流れになって決まっていることがあります。過去に何らかの理由で自傷行為を行った事が、そのまま一連の行動の流れに組み込まれてしまい自傷行為を行うという事が有ります。

経験した例では過去に学校が嫌で、学校に着いた際に自傷行為を行っていた子がいました。その子は時間をかけて学校嫌いを徐々に克服しましたが、一連の流れとして定着してしまった『登校時の自傷行為』が中々無くならず大変だったという事例があります。

また、学校や放課後等デイサービスで疲れたりストレスを抱えて帰宅した際に、自室に閉じこもって自傷行為を行っていた子も、その行動が一連の流れに組み込まれてしまい、学校で楽しいことがあった日などにも帰宅後は自室で「痛い。痛い。」といいながら自傷行為を行ってしまっているという話もあります。
この例では本人も「痛い」と感じているのに止める事が出来ないので、とても苦しんでいたと思います。

自傷行為の対応方法

自傷行為は様々な理由で行っている事があり、そのつど理由や原因は違う為対処方法もそれぞれにはなりますが、自傷行為への一般的な対処方法をまとめてみました。

過剰な反応はしない

自傷行為はストレスや不安などの気持ちが高まり、パニック的に無意識で行っている事が多いです。そのため、大きな声で注意をしたり、無理に止めようとすると逆効果になることもあります。

自傷行為をしてる状況が安全な場合はそのまま見守りを、本人が落ち着ける環境へ誘導をしたり、安心できるグッズを手渡したりするのが効果的です。

安全な環境を作る

自傷行為を行ってしまう際は、自分の気持ちが整理できずパニックになっています。
そのため周囲の状況が分からなくなってしまうので、危険と思われるものを移動させたり、投げたりしてしまう可能性のある物をどかす必要があります。

また周囲にお友達などが居る場合には、お友達などにも手が出てしまうことがあるので、別の部屋などに移動させるようにしましょう。

自傷行為とは別の刺激を与える

自傷行為であざになるほど頭や顔を叩いてしまったり、血が出るほど腕を噛んだり場合があります。
その場合は大人が叩いている頭の付近を怪我をしない程度で強めに押したり、腕をもんだりして自傷とは違う刺激を与えると落ち着ける場合があります。

マッサージやくすぐりなどで刺激を与えたり、予めストレッチや運動などで体を動かしてストレスやエネルギーを発散させる事も効果があります。

学校では自傷行為が有る子を体育の時間に沢山走らせ、ストレスを発散させて自分の体を傷つけることがないように対応している事もあります。

代用品を与える

腕などをかんでしまう場合には噛んでも良いタオルやハンカチを持たせ、自傷をしたくなった場合に代用品として噛ませることも効果的です。

シリコン製やゴム製の噛み付き用製品も市販されているので、購入してみるのも良い手だと思います。

床に保護材を用いる

頭を叩きつける床にマットや布団など保護できるものを敷いて怪我をしないようにさせることも効果的です。

保護材を用意するのが難しい場合には、頭を打ち付けたら間に座布団などを入れてしまうのも良いでしょう。

保護具を使用する

頭を強く叩いたり壁に打ちつけてしまう場合には、癲癇(てんかん)用の保護帽子やヘッドギアを使用する方法があります。

叩いたり抓ったりしてしまう場合には、軍手や厚手の手袋を着用したり、介護用の手が取り出せなくなるミトンの着用などもあります。

なお、これらの着用は自傷行為を行う可能性の有る場合のみに着用するようにしましょう。慢性的に着用していると、付けていること自体がこだわりと成ってしまったり、手の行動を制限させる介護用ミトンなどでは虐待に捉えられてしまうことがあります。

理想的な使用方法としては、自傷行為を行ってしまう際や自傷による痛みが辛いときに、本人が自分で着用できるようにし、落ち着いたら自分で外せるようにすると良いです。

自傷行為の原因を取り除く

特定の物事でストレスが溜まり自傷行為に繋がるなど、理由が判明している場合にはその原因を取り除くという方法もあります。
自傷行為に繋がる原因が無くなれば、ストレスや不安を溜めることなく、本人も落ち着いて過ごすことが出来ます。

行動の流れを変える

自傷行為がこだわりや一連の行動の流れに組み込まれてしまっている場合には、行動の流れを変えるという方法があります。

『こだわりや行動の一部となっているため』の項目で紹介した1番目の例では、登校時に直ぐに校内に入らず校庭で少し運動させてから校内に入るようにさせるなどの対処をしていました。

2番目の例では、学校などから直ぐに自宅には帰らず、ドライブをしたりお買い物をして帰宅までの流れを変えたり、帰宅直後には子供の部屋に入らせないようにして行動の流れを変えて自傷行為を減らすことが出来ました。

行動の流れを変えると逆にパニックになったりする事もありますが、何度も繰り返しているうちにそちらのほうが新しい流れになるため、徐々に自傷行為を行う回数も減少していました。
なお、新しい流れを作ってしまうとそれが新たなこだわりになってしまう恐れもあるので、ランダムで様々なパターンを作ると良いです。

対処方法を教える

自傷行為の原因を排除するのが難しい場合には、不安やストレスを感じたら、どのように行動を取ればよいのかを教える方法があります。
音などが原因の場合にはその場から離れることを教えたり、嫌なことを感じたら絵カードで周囲の人に教えるなどがあります。

まとめ

自傷行為の大きな原因には不安・イライラ・ストレスがあります。
特にやりたいことを静止された場合や、怒られた場合に自傷行為につながる事があります。

自傷行為が有る場合には原因を突き止めて、問題を解消していくことと、ストレスの捌け口や解消方法を作ってあげることが重要です。

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