発達障害の子供は物の貸し借りが苦手

 

発達障害の子供は物の貸し借りが苦手

物の貸し借りは人とのやり取りをする中でも重要なコミュニケーションの一つです。

子どもが集団で活動をするようになると、おもちゃや遊具の貸し借りが発生するようになります。物の貸し借りが円滑に行えないと、勝手に物を取ったり、独り占めしたり、喧嘩になってしまうということもあります。

自閉症やアスペルガー症候群などの発達障害を持つ子供はその障害の特性から、物を貸し借りすることが難しい場合があり、物の貸し借りなどでトラブルを抱えてしまうということも多く見られます。

では発達に遅れのある子どもの場合、どのような理由で物の貸し借りに困難を感じているのでしょうか。

貸し借りが出来ない理由

発達に遅れのある子どもの場合、その特徴や特性などから物の貸し借りが難しいということがあり、主な理由には以下の理由が考えられます。

貸し借りの方法が分からない

発達障害を持つ子供は、正しいルールを理解するのが難しかったり、正しいコミュニケーション方法を獲得していない場合があります。そのような場合は人から物を借りたいと思っていても、どのように貸し借りをすれば良いのか分かりません。

貸し借りの方法が分からない場合には、正しい貸し借りのルールや会話方法などを教えてあげましょう。

基本的には「貸して」「返すね」などの貸し借りに必要な言葉、「どうぞ」「貸してくれてありがとう」などの返事やお礼などです。場合によっては「今は貸せない」「やだ」などの断り方法も教える必要があります。

言葉での会話が難しい場合には「貸して」「お願い」などのサインや、絵カードなどで提示するなどその子供が行いやすい方法を使いましょう。

借りたいという意思表示をしても相手が使っていたり、相手から断られてしまった場合などには借りることが出来ない場合もあるという事や、しばらく時間を空けてから再度聞いてみるなど、場面や状況に合わせた貸し借りの方法がある事も伝えましょう。

貸し借りの状況が理解できない場合には、大人がお手本を見せたり、貸し借りの間に入ってフォローをしたり、ソーシャルスキルトレーニングで貸し借りの場面の練習を行うといった方法を取ると良いでしょう。

衝動性が強い

衝動性とはその場の状況や場面や今後のことを考えず、思い立ったことをすぐに行動してしまう特徴です。ADHD(注意欠陥・多動性障害)などの障害の場合には、衝動的に行動を取ってしまう事があります。

衝動性が強いと自分が「欲しい」「使いたい」と思った際に、ルールやマナーを意識せずに手にとってしまうことがあります。

返す場所が分からない

物を借りたことが分かっていても返す場所が分からなかったり、返す場所や借りた人を忘れてしまうということもあります。

そのような場合は借りたものを返す場所や箱を決まった場所に作り、借りたらひとまずそこに戻すという方法が効果的です。その後一通りの作業が終った際に、その場所から個々の置き場に返す方法を取りましょう。

個々の場所が分からない場合には、「鉛筆は文具箱」「ほうきは掃除用具入れ」などのように返す物と場所の位置を写真やイラストを用いた図や表を作り、視覚から分かりやすく掲示するのも方法の一つです。

特定の人から借りた際にその人を忘れてしまった場合、借りた物に記載された持ち主の名前を確認するように促したり、先生や保護者など大人や周囲のお友達に確認してもらう方法を教えてあげましょう。

貸したものが帰ってこないのではと思ってしまう

年齢の小さいころや知能面で低い場合などは、物を貸すという行為が理解できない事があります。

物を貸すということは相手が使い終われば帰ってくるという行為ですが、低年齢などで理解の発達が未熟な場合、『物を相手に渡す』という行為は『物をあげる』と思っている場合があります。

このような場合は相手が「貸して欲しい」と言ってきても取られてしまうと思い込んで「渡してなるものか」と相手に物を渡せない事があります。

物を取られた人の気持ちが分からない

発達に遅れのある子どもの場合、相手の立場や気持ちになって考えるということが苦手です。そのため、勝手に人のものを取ってしまった際に、相手がどのように感じているのかが分かりません。

このような場合、本人が物を勝手に取られた際にどのように感じるか、実際に体験してもらいましょう。実際に勝手に物を取られるということを経験すると、相手が怒ったり嫌な思いをしているのが理解できるでしょう。

自他の境界の区別が難しい

発達障害の子供は自分と他人の境界や自分と他人の区別が難しいという特徴があります。この様に自分と他人の境界が曖昧であったり区別が出来ないと、物には所有者がいるという理解や、自分の物と他人の物の区別などが難しくなります。

発達障害の子供によく見られる例としては、お友達が怒られているのを見かけると自分が怒られていると感じて怖がったりすることや、自分の思っていることは相手も理解しているはずと思い込んでしまう事などです。

物を借りる際も同じように『自分が欲しいものは相手も理解している』という前提が自分の中にはあるため、人から勝手に物をに取ったり、複数のものを独占してしまうということがあります。

正しく貸し借りを行うには

物を正しく貸し借りするには、貸し借りの経験を増やし、貸し借りにおけるルールの理解をする事が重要になります。貸し借りのコミュニケーションについては、子ども本人が行いやすい方法を取ってもらうようにしましょう。

貸し借りのルールを理解する

物を貸し借りする場合には、そのルールを理解してもらう必要があります。

物の貸し借りには「貸して」など貸して欲しいという意思を相手に伝え、相手から「いいよ」という返事を貰ってから借ります。借りた後には「ありがとう」のお礼と共に、持ち主へ返すという返却までを一連の流れとして教えましょう。

また、必ずしも貸してもらえるわけではないので、断られた際には『少し時間を空けてから再度お願いする』『別の人から借りる』『今回は諦める』などの対処方法も教えてあげましょう。

物を借りると共に人に物を貸す立場になる事も、貸し借りを理解するうえで重要です。機会を作り物を貸すという体験も行えると良いでしょう。

貸し借りの練習をするには実際に遊びや学習の中で行うほか、ロールプレイとして貸し借りの場面を作って実践したり、貸し借りの場面の写真や動画を用いてルールの確認を行うと客観的に貸し借りの様子を目で見ることが出来て理解もしやすいと思います。

自分が借りる経験をする

正しく物を借りるという経験が無いと、どのように物を借りれば良いのかが分からなかったり、間違ったルールで人の物を借りてしまうということになりかねません。

物を借りるルールが分からなかったり、借りる回数が少ない子どもには、人から物を借りるという経験を積ませて理解を増やしましょう。

まずは大人やお友達が物を借りる様子を見てお手本としたり、貸す人との間に大人が入って借りるやり取りを補助してあげましょう。

借りるルールやマナーが理解できたら、借りたものを返すということも教えてあげることが必要になります。

時間や回数などで貸しだす

人に物を貸すのが難しい場合は、時間や回数などをルールとして作り、貸し借りを行う方法もあります。

具体的に「何分間」「時計の針がここに来るまで」など時間で決めたり、「あと何回やったら交代」のように回数でルールとして決めてしまうと良いでしょう。時間や回数はその子供にあわせ分かりやすい方法を取りましょう。

終わりの時間や回数に近づいたら周囲の人が「あと何回だよ」「あと何分だよ」と気付きの声かけを行うとより貸すタイミングの意識が深まります。

回数や時間をルールとして決めてしまえば、逆に自分が借りる際にも「あとどれだけ待てば借りられる」「お友達があと何回やったら交代してもらえる」と分かりやすくスムーズな貸し借りに繋がると思います。

グループ活動やゲームなどで貸し借りを行う

貸し借りの練習を行う場合にはグループ活動や、道具を貸し借りするゲームや遊びなどを行う中で実際に物の貸し借りを行うという方法も効果的です。

具体的に貸し借りの練習となると嫌がったりする事も多いと思いますが、ゲームや遊びの中で貸し借りを行うと楽しんで行えるだけでなく、お友達と円滑なコミュニケーションを育むことにも繋げることが出来ます。

貸せない理由を本人に聞く

お友達が「貸して」と近づいてきても、嫌がったりスムーズに物を貸せない場合には、本人から貸せない理由や貸したくない理由を直接聞く方法もあります。

言葉やコミュニケーションが苦手な場合、自分の気持ちを上手く言葉に出したり相手に伝えることが難しいということが多いです。そのような場合には落ち着いてから貸したくない理由を聞くことで「今は使っている」「区切りが付くまで使いたい」など貸したくない気持ちを聞きだせることもあります。

気持ちを聞きだすことが出来れば本人の気持ちに寄り添い、「使い終わったら貸してあげよう」とお友達の間に入って貸し借りの手伝いをする事も出来ます。

貸し借りするものにはマークをつける

教室の備品や皆で共有をするものには『共有物である』と言うことが分かるように、シールやラベルなどで目印となるマークを付けると良いでしょう。

発達障害の子供は言葉で注意をしても理解が乏しい場合があるため、実際に目で見て理解できるようなマークがあると効果的です。

マークをつける事が難しい場合には、逆に自分の所有物にマークや目印をつけ、マークや目印がないものは借りた場所や貸してくれた人に返すというルールを作りましょう。

個人の持ち物にもマークを付けて名前を書くことで、物を借りた際に誰の物だというのが理解できるだけでなく、返す際にも誰から借りたのが分かりやすくなります。

まとめ

発達障害の子供はその特性や特徴から物を貸し借りするのが難しい傾向にあります。これは貸し借りのルールの理解不足、コミュニケーションの問題、考えが自分中心となってしまう事が大きな原因になります。

まずは物には持ち主が居ることと、貸し借りにはルールや手順がある事を理解し、貸し借りをする経験を増やしてあげることが必要です。

貸し借りというコミュニケーションを通すことで、勝手に取られると嫌な思いをする事や、貸してあげることで相手から喜ばれるといった人の気持ちの理解やコミュニケーションの方法としても理解を深めることが出来ると思います。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket