自閉症や発達障害の感覚過敏とは
自閉症や発達障害の感覚過敏とは
自閉症の大きな特徴の一つに感覚過敏というものがあります。これはその名前のとおり、様々な感覚が敏感となってしまう事です。自閉症の子供が耳を抑えていたり、イヤーマフなどのしているのも、耳の感覚が敏感で音が苦手だという理由があります。
では自閉症の人に見られる感覚過敏とはどの様なものなのでしょうか。様々な面から調べてまとめてみました。
感覚過敏とは
感覚過敏とはその名前のとおり、様々な感覚が過剰に敏感になることです。反対に感覚が感じにくくなることは感覚鈍麻とよばれています。感覚鈍麻と感覚過敏はセットである場合も多く、ある感覚は鈍感で有っても逆に別の感覚は敏感だという事も多く見られます。
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感覚とは、外部または内部から受けた情報を感覚器官から取り込み、その情報を脳に送り、脳が処理を行い、脳がどのような体の動きをとればよいか指令を出し、体の各部位がその対応に添った動きをする一連の情報の流れになります。この流れに不具合が生じると、感覚過敏となります。
また、感覚器官が過大に情報を取り込んでしまう場合、受けた情報を脳が過剰に処理をしてしまう場合など様々な原因があります。
過敏になる感覚は「視覚」「聴覚」「触覚」「味覚」「嗅覚」の5つで、1つの感覚が敏感になる場合と複数の感覚が過敏になる事があります。
感覚過敏になると、日常生活を送る中で多くの刺激や情報を取り入れてしまい混乱したり、心地悪さや痛みなど不快感をじることがあります。自閉症や発達障害の人は健常の人よりも多くの情報を取り入れすぎてしまい、肉体的・精神的にも疲れてしまうという事もあります。
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さらに、苦手な感覚から逃れようとする行動を取ったり、健常の人が好まないような感覚を好み、その感覚を得ようと危険なことや好ましくない行動などをとる事があります。
五感と感覚過敏
人間には「視覚」「聴覚」「触覚」「味覚」「嗅覚」の5つの感覚があり、それらの感覚が取り入れた外部情報を脳に送り、脳が情報を判断して行動を行っています。その5つの感覚と関連した感覚過敏には以下のようなものが見られます。
視覚の感覚過敏
視覚の感覚過敏とは眼から入る感覚が過剰に敏感となってしまう状態です。視覚から入る情報には、光、色、視野、物の形や位置や動きなどがあります。
視覚が感覚過敏になると、「光をまぶしく感じる」「色を正しく捕らえることができない」「奥行きや距離など空間把握が困難」「人などの動きに混乱する」などが有ります。明るい場所で眼をつぶってしまったり、人が多い場所などで落ち着かなくなったりする場合は、視覚の感覚過敏による事も有ります。
キャッチボールなどが不得意であったり、壁や柱などにぶつかりやすいなどの特徴も、視力の感覚過敏により正しい位置関係や空間把握が難しいという理由の場合もあります。
聴覚の感覚過敏
聴覚の感覚過敏とは耳から聞こえる音の感覚が敏感となってしまう状態です。聴覚から入る情報には、音の大きさ、方向、リズム、音の高い低いなどがあり、会話を行ううえでも非常に重要な感覚です。
聴覚が過敏になると、「音が大きく聞こえる」「普通の人が感じないような音が聞こえる」「複数の音が同時に聞こえてしまう」「音が高く・低く聞こえる」などが有ります。自閉症の人が耳を押さえる行動も、この聴覚過敏により音が過剰に聞こえてしまう事が理由です。
触覚の感覚過敏
触覚とは主に皮膚の面から感じる感覚で、この感覚が過敏になってしまう状態が触覚の感覚過敏となります。触覚の感覚には痛み・押された圧力・温度などが有ります。
触覚が過敏になると、「痛みを大きく感じる」「触られると痛い・くすぐったい」「温度を暑く感じたり寒く感じたりする」などがあります。
味覚の感覚過敏
味覚とは主に舌で判断する、食べ物や飲み物などの味に関する感覚です。味覚で感じる味には「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」「うま味」があります。
味覚が過敏になると、それぞれの味が濃く感じたり、逆に薄く感じたりすることが有ります。
嗅覚の感覚過敏
嗅覚とは鼻から感じ取る空気中の臭いやその原因の物質を判断する感覚です。嗅覚には「臭い」や「香り」を感じ取ることが出来ます。
嗅覚が過敏になると「臭いや香りが強く感じる」「臭く感じる」などがあり、香水などの臭いから気分が悪くなったりする事も有ります。
自閉症の子供に見られる主な感覚過敏の例
自閉症の子供に見られる代表的な感覚過敏には以下の物があります。これらの症状が見られた場合には、それぞれの感覚が不快になっていることが多く、その原因を取り除いてあげる必要があります。
服へのこだわり
季節に関わらず特定の衣服を好んで着るというこだわりも、感覚過敏が原因であるがあります。体の触覚が過敏であると、素材の肌触り、体への締め付けなどから同じ服を着続けたり、違う素材や形状の衣服を着るのを嫌がることがあります。
帽子、手袋、靴下、眼鏡、マスクなどをつけるのを嫌がるのも、感覚が過敏である事が理由の場合もあります。
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つま先立ち
自閉症の子供に時折見られるつま先立ちですが、つま先立ちとなる理由の一つに足の裏の感覚過敏という事が有ります。足の裏の感覚が過敏であると、足を付けて歩くのが嫌になってしまい、それを避けるためにつま先立ちをするという事も見られます。中にはつま先の感覚が嫌いで、かかとに重心を乗せた歩き方をしている子供も見たことが有ります。
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偏食
偏食とは食べ物の好き嫌いが多かったり、食べるものに極端な偏りがあったりする事です。
自閉症や発達障害の子供が偏食をする理由として、味覚の感覚過敏や舌や口の中の触覚の過敏などが考えられます。
味覚が過敏だと、味付けが濃すぎると感じたり、普通の人が美味しいと感じる味付けでも、不味いと感じたり変な味だと思ってしまう事も有ります
舌や口の中の触覚が過敏であると、柔らかい食べ物を口にしても硬いと感じたり、チクチク・ゴワゴワなど嫌な触覚を感じている可能性が有ります。また、温度が極端に熱い・冷たいと感じている事なども考えられます。
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人ごみが苦手
人が多い街中やお店の中が苦手と言う人も多く見られます。これは、音がたくさん聞こえるだけでなく、多くの人の動きに翻弄されてしまったり、お店などの光が過剰に感じてしまい混乱したり疲れてしまうためです。
人ごみなどはでは複数の感覚が使われる為、「視覚」や「聴覚」などの感覚過敏を持っていると、非常にストレスになります。
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人ごみが苦手| 発達障害-自閉症.net
音が苦手
自閉症の人に多く見られるのが、人ごみや音のする場所で耳を押さえてしまうという行動です。これは聴覚過敏から音が大きく聞こえ、うるさいと感じたり、通常の人が聞こえないような音まで感じ取ってしまう事が理由です。
また、通常の人は必要な音以外は無意識のうちにシャットダウンしていますが、自閉症や発達障害の人の場合には、聞こえる音全てを拾い取ってしまい、頭が処理を出来ずに混乱したりパニックになってしまう事が有ります。
比較的多い苦手とされる音には「動物や赤ちゃんの泣き声」「水洗トイレの音やエアータオルの音」「怒鳴り声などの大きな声」「複数の会話」「車やバイクのエンジン音」「救急車やパトカーなどのサイレン」「競技用ピストルの音」「風船の割れる音」などが有ります。
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自閉症と耳をふさぐ行為| 発達障害-自閉症.net
指先が不器用
指先が不器用な理由のひとつに、指や手の感覚過敏と言う事も有ります。特に指先の感覚が敏感であると、物を掴んだだけでも不快感やくすぐったさを感じることがあり、物を触ったり掴んだりすることを嫌がり、結果的に不器用になったり、不器用だと見られてしまうことがあります。
抱っこを嫌がる
自閉症の赤ちゃんに見られる特徴の一つに、抱っこを嫌がるというものがあります。これは抱っこの感覚が不快で有ったり、痛いと感じてしまうことで、泣き出して顔を背けて抱っこから逃れようとするものです。
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手を繋ぎたがらない
手のひらの感覚が過敏であると、手を繋ぐのを嫌がったり、手を触られること自体を嫌うことが有ります。手のひらの過敏も人により様々で、指先が過敏であったり手のひらが過敏であったりもします。
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手をつなぐのが苦手| 発達障害-自閉症.net
感覚過敏の対応方法
感覚の感じ方や過敏の程度はひとにより様々ですが、一般的に効果のある感覚過敏の対応方法について調べてまとめてみました。
嫌な感覚に慣れさせる
嫌な感覚に慣れさせる方法ですが、これは本人が耐えられる範囲で過敏な感覚に刺激を入れて行き、徐々に慣れさせるというものです。
足の裏の感覚が敏感でつま先立ちに成ってしまう子供の例ですが、医療関係者からのアドバイスで、足の裏へのマッサージや足の裏を地面に付ける練習などを取り入れ、徐々に刺激に慣れさせ感覚の許容範囲を広げるというものでした。
もちろん無理に行うとストレスが溜まったりして逆効果ですが、本人が不快を感じない程度のレベルで時間をかけて行っていくと、徐々に足を地面に付ける事のできる時間が長くなっていくのが見られました。
感覚過敏について理解をする
感覚過敏は当事者になってみないと、どの程度辛いのか、何が不快に感じるのかは分かりません。普通の健常者ではなんとも無い刺激が、感覚過敏の人には激痛かも知れません。
そのため、どのような感覚や状態が苦手なのかを理解し、本人にとって生活の行いやすい状況を作ってあげることで、ストレスや不安などを抱えないようにすることも重要になります。
感覚を軽減するツールを使用する
感覚が過剰に情報を取り入れてしまう場合には、それを軽減する様々な道具を使う事も効果的です。
代表的なものには音がうるさい場合には「イヤーマフ」「耳栓」の利用、、まぶしい場合にはサングラスを使用する、周囲の状況に気が行ってしまう場合には「ついたて」をつけたり「個室」に移動するなどです。
できることならば過剰な感覚を感じた場合に、自分でこれらのツールを利用できるようにすると、パニックなどにならず自分で嫌な感覚から守ることができるようになります。
予定などを説明する
自閉症の子供は今後の流れを予測することや、急な状態の変化に対応することが苦手です。さらに感覚に過敏があると、急に苦手な感覚などを感じて混乱したりパニックを引き起こす恐れが有ります。
そのため、今後の予定などを説明し、苦手な行動や感覚を感じるかも知れないことを予測できるようにする事も重要です。感覚が過敏であっても、本人の中で有る程度予測ができると、対処もしやすくなると思います。
感覚統合療法などを受ける
感覚統合療法とは、平衡感覚、触覚、固有感覚(筋肉や関節などの動きや感じ方の感覚)を組み合わせて行うことで、複数の感覚からの情報を的確に整理して行動が取れるように行います。
具体的な感覚統合の訓練だと縄跳びなどが有ります。縄跳びには「腕を動かして縄を回す」「縄を見て位置を確認する」「足などの筋肉を使って縄を飛ぶ」という複数の感覚を用いた動作があり、これらの感覚から得た情報を頭で処理し、体の的確な部位を動かすという訓練になります。
感覚統合療法を受けることで、それぞれの感覚だけでなく、情報の処理方法や、体の連動した動きなどの訓練になります。
まとめ
感覚過敏は本人にしかわからない辛さがあります。
大事なのはどの様な感覚が苦手で、どのようなレベルまで対応できるのかを把握し理解をしてあげることが重要です。
その上で、感覚過敏の子が過ごしやすい環境を整えたり、対応できる方法などを教えてあげることが必要になります。