自閉症や発達障害の感覚鈍麻とは

   2018/03/21

自閉症や発達障害の感覚鈍麻とは

自閉症の大きな特徴の一つに感覚鈍麻と言うものがあります。これはその名前のとおり、様々な感覚が鈍感となってしまう事です。

一見、痛みや暑さに強いと思われても実は感覚が鈍感だったという事や、体の動きがぎこちなく運動オンチだと思われていたのか体を動かす感覚が鈍かったという事もあります。

では自閉症に見られる感覚鈍麻とはどの様なものが有るのでしょうか。調べてまとめてみました。

感覚鈍麻とは

感覚鈍麻とは感覚が鈍くなる事で、五感である「視覚」「聴覚」「触覚」「味覚」「嗅覚」と、筋肉や関節の動きなどを処理する「固有感覚」と呼ばれる、それぞれの感覚や複数の感覚からの感じ方が鈍くなります。

逆に感覚が敏感になる事は感覚過敏といい、必要以上にそれぞれの感覚から刺激や情報を得てしまいます。感覚鈍麻と感覚過敏はセットである場合も多く、ある感覚は鈍感で有っても逆に別の感覚は敏感だという事も多く見られます。

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自閉症の感覚過敏とは| 発達障害-自閉症.net

感覚とは、外部または内部から受けた情報を感覚器官から取り込み、その情報を脳に送り、脳が処理を行い、脳がどのような体の動きをとればよいか指令を出し、体の各部位がその対応に添った動きをする一連の情報の流れになります。この流れに不具合が生じると、感覚鈍麻となります。

感覚鈍麻には感覚器官が情報を小さく感じたり、受けた情報を脳が過小に処理をしてしまう場合など様々な原因があります。

感覚が鈍感になってしまうと、痛みに鈍くなる、音が聞こえにくくなる、味が分からなくなる、暑さや寒さが感じにくくなる、体の動きが不器用になるなどの症状が見らます。

感覚探求行動

感覚鈍麻になると、遊びや日常生活の中では刺激を得る事が出来ず、より強い刺激を得ようと様々な行動をとる事が見られ、そのことを感覚探求行動と呼びます。

痛覚や圧力などを得る為に激しい自傷行為を行う、走りまわったり跳びはねる、高い場所に登る、グルグル周るなどが感覚探求行動の例になります。好きな感覚が有るとその感覚を得ようと同じ行動を何度も繰り返す「常同行動」を取ったり、動き回って落ち着きが無いように見られる事があります。

自閉症に見られる感覚鈍麻の例

自閉症や発達障害の子供に見られる代表的な感覚鈍麻の例をまとめてみました。感覚鈍麻に見られる例は、感覚過敏に見られる例と良く似ており、感覚の感じ方の違いから自閉症の特徴的な行動を取ることがあります。これらの行動は過度になりすぎたり、自分や他人などに被害が出てしまうと問題行動として取られてしまうことがあります。

目が回らない

自閉症の子供は目が回りにくいという特徴を耳にする事が多いと思います。これは、回転など普通の人が目が回るような動きに自閉症の子供が強いというわけではなく、平衡感覚が鈍麻である事が理由となっています。

平衡感覚は、位置やバランスや重力などを感知する、前庭機能や三半規管からの情報を元に自分の位置や重力に対しての傾きや動作の加速などを感じています。これらの機能の発達が遅れていたり、感覚の感じ方が鈍いと目が回らないという状態になります。

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自閉症の子供は目が回らない| 発達障害-自閉症.net

姿勢が保てない

立っている時の姿勢や、椅子に座っている姿勢が正しく保てない理由の一つに、上記項目と同じように「平衡感覚が鈍い」という理由があります。

平衡感覚が鈍いと、姿勢を真っ直ぐに保てなかったり、真っ直ぐに保っているつもりでも曲がってしまいます。動きや加速に対しての感覚が鈍いと、走ったり歩いたりする際の姿勢や、その速度などにも関連があり、場合にっては障害物との位置関係の把握が難しく、物に衝突することもあります。

なお、姿勢が保てないのには、多動で落ち着けない場合、体の機能や筋力が弱い、骨格が曲がっているなど様々な理由があるので注意が必要です。

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自閉症や発達障害の姿勢保持と姿勢の悪さ| 発達障害-自閉症.net

高い場所を好む

自閉症の子供の中で多動などの特徴を持つ場合に、高いところへ登るのを好むという事があります。高い場所を好むのには景色や感覚を楽しんでいるためとも言われていますが、高いところに登ってしまうのにも感覚鈍麻が関係している場合があります。

普通の子供の場合は高いところなどは怖いと思って登りませんが、感覚が鈍くなってしまうと、高さとその危険性が理解できなくなる事があります。

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高い場所に登る| 発達障害-自閉症.net

自傷行為

自傷行為とは自分の体を傷つけてしまう行動で、不安やストレス・パニック・外部刺激を得るためなどが自傷行為を行う理由とされています。

自傷行為の中には血が出るほど噛む、頭や顔が変形するほど叩く、爪を向いてしまうなど、普通の人なら痛いと思うような行動をする場合があります。これは無我夢中でやってしまうという事もありますが、痛みを感じる痛覚が鈍く痛みを感じないという理由の場合もあります。

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自傷行為の原因と対処法| 発達障害-自閉症.net

怪我に気が付かない

上記の自傷行為と同様に痛みに対して鈍感であると、怪我などをしても感じなかったり、気が付かないという事もあります。血が出ていたり手足が腫れていても気にせず遊んでいたり、爪やささくれなどを楽しくて何度も剥がして血だらけになってしまう子供も見たことがあります。

痛みや痒み、温度などの感覚が鈍いと、怪我などをしても本人は気が付かず、適切な処置が出来ずに怪我や病気が重くなってしまうという事があるので、注意が必要となります。

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痛みに鈍感| 発達障害-自閉症.net

臭いや香り

臭いや香りに関する臭覚が鈍感になってしまうと、匂いが感じ取りにくくなったり、良い香りや臭いにおいなどの判断が難しくなってしまいます。

そのため、臭いや香りから食べ物への好き嫌いが出来てしまったり、自分の体臭など気が付かず周囲の人に不快感を与えてしまうという事もあります。

疲れを感じない

中には疲れを感じず物事に取り組みすぎてしまい、体や精神的に悪影響が出てしまうということもあります。肉体的な疲れを感じない場合、精神的な疲れを感じない場合のそれぞれがありますが、過度や長時間ものごとに取り組みすぎると、感じることは無くても疲労は蓄積されていくので、どこかで悪影響を及ぼします。

また発達障害やADHDには過集中という特性を持つ事もあります。過集中とは過度に物事に集中をしてしまい、日常生活に支障を来たす、10時間以上も休まず集中してしまう、トイレや食事や休憩などを取らず心身ともに疲労するなどの悪影響が出てしまいます。

中には丸一日近く物事に集中してしまい、気が付くと疲労で倒れてしまうという事もあります。

偏食

味を感じる味覚が鈍感であったり、口の中の触覚が鈍感であると、食べ物の味や食感を正しく感じることが出来なくなってしまいます。そのため、普通の人が美味しいと感じる食べ物でも、不味いと感じたり硬い食感だと感じ取ってしまうことが有ります。

食べ物への味覚や触覚が正しく感じることが出来ないと、食品や飲み物を美味しく食べることができなくなるので、食べ物の好き嫌いや偏食にも繋がります。

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自閉症や発達障害の偏食| 発達障害-自閉症.net

不器用

固有感覚など体の動かし方の感覚が鈍感であると、体を使った動作が上手に行えず不器用となってしまいます。手先の巧緻性などは手の動かす速さ、位置、高さ、掴む強さなど様々な要素が複雑に絡み合ってきます。この動作のどこか1つでも感覚が鈍くなってしまうと、動作の不器用になも繋がります。

文字書きでは、筆圧、鉛筆の握る位置や力、縦横斜めなど複雑な方向に腕を動かす感覚などが必要となります。文字を書くことが苦手な場合、文字自体が分からないのではなく、腕の感覚や動作が苦手なため文字書きが出来ないという事もあります。

運動感覚

運動感覚が鈍感であると、体をどのように動かしてよいのかが分からず、体の動きがぎこちなくなったり、運動オンチや運動自体が苦手となってしまいます。

運動感覚は固有感覚の鈍麻により体の部位1つ1つを正しく動かすのが難しかったり、複数の動きを同時に行うのが難しかったりすることがあります。

場合によっては、自分の体の位置や、手足などの部位がどの角度や向きなどに位置しているのかが分からなかったりする事もあります。

なお体の不器用さには発達性協調運動障害とい発達障害もあります。これは知的障害や身体障害が無いにも関わらず、複数の動作を行う運動が苦手であったり、一つ一つの動作がぎこちなかったり不器用だったりする状態をいう障害です。

音が聞こえにくい

聴覚が鈍くなってしまうと、音が聞こえ難くなってしまいます。音に関してはボリュームが下がるように全体的な音が聞こえ難くなる場合と、特定の音や声などが聞こえ難くなる場合があります。

声をかけても振り向かなかったり気が付かない場合には、聴覚の鈍麻が原因かも知れません。また、自閉症や発達障害には聴覚が過敏になってしまう特徴を持っている人も多く見られます。

場合によっては特定の音は耳をふさぐほど苦手でも、別の音は全く気にしなかったり、逆に聞こえにくいという、聴覚過敏と聴覚鈍麻の両方の特性を持っているという事もあります。

大きな声を出す

聴覚が鈍くなると音が聞き取り難くなってしまうので、その結果自分で聞き取りやすい大きさの声を出してしまうという事があります。

また、テレビやCDなど音声や音楽なども聞こえ難くなってしまうので、非常に大きなボリュームで聞いたりする事もあります。

暑さや寒さが分からなくなる

温度を感じる感覚が鈍くなってしまうと、暑さや寒さを、温かさや冷たさが感じ難くなってしまいます。自閉症や発達障害の子供が、寒い日にも薄着で半そでや半ズボンをはいていたり、暑い日に長袖や厚着をしているという季節感にそぐわない服装をしてしまうのも、暑さや寒さの温度を感じるのが鈍いという事も考えられます。

本人は暑いと思っていても、汗をかいたりする体温を下げる機能が鈍くなってしまい、体に熱が篭って体温が上がってしまうという事も有ります。

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体温調整が苦手| 発達障害-自閉症.net

感覚鈍麻の対応方法

感覚の感じ方や鈍さの程度はひとにより様々ですが、一般的に効果のある感覚鈍麻の対応方法について調べてまとめてみました。

感覚の訓練を行う

感覚は訓練を行うと有る程度は敏感になったり、スムーズに反応することが出来るようになります。

苦手な感覚がはっきりしている場合には訓練を行うと良いでしょう。専門的な訓練は各種療法士や医師などに相談をし、子供一人一人に会った支援を受ける必要が有ります。

簡単な訓練だと体のマッサージを行うことで、圧力や触覚などになれる練習を行うことができたり、ボール投げやジョギング程度のちょっとした運動でも体の感覚の練習にもなります。

感覚統合療法などを受ける

感覚統合療法とは、平衡感覚、触覚、固有感覚(筋肉や関節などの動きや感じ方の感覚)を組み合わせて行うことで、複数の感覚からの情報を的確に整理して行動が取れるように行います。

具体的な感覚統合の訓練だとボール投げなどが有ります。ボール投げには「ボールを持つ」「投げる場所の距離や位置を確認する」「手や体の筋肉を使って投げる」という複数の感覚を用いた動作があり、これらの感覚から得た情報を頭で処理し、体の的確な部位を動かすという訓練になります。

感覚統合療法を受けることで、それぞれの感覚だけでなく、情報の処理方法や、体の連動した動きなどの訓練になります。

感覚鈍麻について理解をする

感覚鈍麻は当事者になってみないと、どの感覚がどの程度感じるのか、どの感覚からの情報取得が苦手なのかは分かりません。普通の健常者が辛いと思うような刺激が、感覚鈍麻の人には感じられなかったり、心地よい刺激だと受け取るかもしれません。

そのため、どのような感覚や状態が苦手なのかを理解することで、本人にとって生活の行いやすい状況を作ってあげ、ストレスや不安などを抱えないようにすることも重要になります。

まとめ

感覚鈍麻とは感覚のいずれかまたは複数の感覚が鈍感になり、感覚を感じるのが難しくなったり、感覚に対しての動作が困難となる事をいいます。

感覚鈍麻は本人にしかわからない辛さがあります。

大事なのは、どの様な感覚が苦手で、どのような感覚まで対応できるのかを把握し理解をしてあげることです。その上で、感覚鈍麻の子が過ごしやすい環境を整えたり、対応できる方法などを教えてあげることが必要になります。

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