追従性眼球運動とは

   2018/03/18

追従性眼球運動とは

追従性眼球運動とは線の上を追ったり、移動する人などを眼でゆっくりと追いかける運動です。動いていない対象物から視線を離さずに見つめ続けることも追従性眼球運動に含まれます。

歩いている人を眼で追ったり、青空を流れる雲を眺めたりする眼の動きが追従性眼球運動になります。

学習障害や発達障害をもつ子供の中には、この追従性眼球運動の動作が鈍かったり正しく行えないために、様々な問題に突き当たっている場合もあります。

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追従性眼球運動と動体視力

追従性眼球運動は動体視力の基礎的な部分でもあり、この能力が劣っていると運動の様々な面で苦手な事が出てきて、運動オンチだと思われてしまう事もあります。

『動体視力』とは移動している物体に対して視線を外さずに、位置や距離を認識する能力です。逆に動かない物体に対して認識することを『静止視力』といいます。

動体視力には『DVA動体視力(Dynamic Visual Acuity)』と『KVA動体視力(Kinetic Visual Acuity)』の2種類があります。

DVA動体視力は縦方向や横方向に動く対象物を認識する能力で、眼球を動かす筋肉の力が重要になります。DVA動体視力はボールを眼で追ったり、走る人を認識する能力と密接な関連があります。

KVA動体視力は前後方向や奥行きに動く対象物を認識する能力で、水晶体の厚みを変化させている毛様体筋の動きでピントを合わせる能力が重要になります。KVA動体視力は自分に向かってくるボールへの反応や、自分が高速で移動する自転車競技やスキー競技などで重要となります。

また、縦横の動きと奥行きの動きを同時に見極めなければならないスポーツも数多くあり、テニスや卓球など球を相手と打ち合うスポーツや、ボクシングや剣道などの格闘技などがDVA動体視力とKVA動体視力の両方の能力が必要となります。

追従性眼球運動が鈍いと

追従性眼球運動の機能が鈍いと発達障害で見られる様々な問題点に係わることがあります。

自分の位置感覚が分からなくなる

追従性眼球運動がスムーズに行えないと、自分が移動している際に目標物を見失って位置感覚や距離感が分からなくなったり、壁などにぶつかってしまう事もあります。

人は移動している際に無意識に目標物を見て動いています。目標物には、ドアなどの向かおうとしている先や、話しかけるために近寄ろうとしている人であったり、周囲にある壁などがあります。

目標物を見失ってしまうと、対象物との距離感がわからなくなったり、周囲の壁や人などとの位置感覚が分からなくなり、近寄りすぎたりぶつかってしまうという事もあります。

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文章や本が読めない

文章や本を読む際には、印刷された文字を眼で追って読んでいきます。この際に眼でスムーズに文字を追うことが出来ないと、文字を読み飛ばしてしまったり、どこを読んでいるのかが分からなくなってしまう事があります。

また、同じ場所を何度も読んでしまったり、順番を間違えたり飛ばしてしまうような場合にも追従性眼球運動に問題がある可能性があります。

文章を読んでいる際に視線が外れてしまう場合には、指で追いながら読んだり、読む場所だけが見えるように他の文章や行などを隠してしまう方法があります。

文字がかけない

文字を描く際に書き順を追ったりするのも、追従性眼球運動が行っています。そのため、眼で書き順を追うことが難しいと、間違った書き順で文字を書いてしまったり、書いた文字が全く別のものになってしまう事があります。

文字を書いている鉛筆の先を見るのが難しいと、なぞりがきが出来なかったり、マス目から文字がはみ出してしまうということにも繋がります。

図形や絵を描くのが苦手

図形や絵を描く際にもペン先を眼で追い、その位置や動きなどを判断して手を動かしています。

追従性眼球運動が苦手であると、途中で視点が外れてペン先を追う事が出来なくなってしまい、線が曲がったり目標地点を突き抜けて書いてしまうという事があります。

運動やスポーツが苦手

既に『追従性眼球運動と動体視力』において、書いてはありますが、追従性眼球運動は運動を行う上で重要な動体視力と密接にかかわっています。

球技などではボールが縦横に移動するのを眼で追ったり、自分に向かってくるボールに対して素早く認識して反応する必要があります。集団で行うスポーツでは味方の位置や相手の動きなどを眼で追って認識して判断する事が重要になります。

そのため追従性眼球運動が弱いと、スポーツや運動において苦手な部分や対応が難しく運動オンチとなってしまう事があります。

追従性眼球運動のトレーニング方法

追従性眼球運動のトレーニング方法には、目の動きを鍛える分野と、目で見た情報を適切に脳で処理させる分野があり、総称として『ビジョントレーニング』と呼ばれています。

ビジョントレーニングとは

ビジョントレーニングとは眼の機能を向上させる目的で行われるもので、眼球運動のコントロール、両目の連携、動体視力、立体や奥行きの認知など幅広い分野にわたっています。

近年ではスポーツ選手のトレーニングや、学習障害や運動が苦手な子供の療育としても用いられています。

ビジョントレーニングには鍛える部分に関して様々な方法がありますが、追従性眼球運動に効果があると思われる方法は以下のものが代表的です。

線のなぞりがき

下書きに沿って線をなぞり書きは、追従性眼球運動と共に、眼から入った情報を理解し適切に手を動かす練習になります。

最初は直線などの簡単な線から始めて、曲線やジグザグ線などを行っていきましょう。なれてきたら指を使わずに眼だけで追ったりすると効果的です。なぞりがきは、ただなぞるだけでなく、始点と終点を意識して、スタートから終わりまではみ出さないように行いましょう。

なぞりがきの応用として、同じ図形を線でつなげたり、迷路なでの線引きなどで楽しみながら練習行うのも良いでしょう。

参考としては以下のサイトに詳細が載っています。
佐賀県教育センター:『読み書き等のつまずきに対する「見る力」を高めるトレーニングの活用

キャッチボール

奥から手前へなどの追従性眼球運動の練習にはキャッチボールなどが有効です。キャッチボールも眼から入った情報を体に伝達し、ボールとの距離感や位置関係を把握してボールをキャッチするので、視覚情報と体の動きとの練習に効果的です。

ボールのキャッチが難しい場合は、転がしたボールを取って相手に返すという方法からはじめましょう。慣れてきたらボールを小さいものに変えたり、転がすスピードを早くしたり強弱をつけたりと応用することができます。

まとめ

追従性眼球運動は動くものを眼で追うという単純な動作でもありますが、発達障害などの子供の場合、物を上手に追う事が難しかったり、追っている途中で視線が外れてしまうことがあります。

動くものを眼で追う動作の追従性眼球運動に問題があると、日常生活、勉強、運動など様々な面で苦労やストレスを抱え、見たことや見たことを適切に処理することが難しくなることも有ります。

文字の読み書きや運動面で問題があると、学習能力や身体的な問題と考えてしまう事が多いですが、原因は目の動きであると言う事も頭に入れておく必要があります。

子供が困っていたり困難を抱えている場合には、その理由を様々な方面から考え、子供の気持ちと立場になって対処方法を考えてあげる必要があります。

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