自閉症や発達障害の人が人や物にぶつかりやすい理由

   2019/05/16

自閉症や発達障害の人が人や物にぶつかりやすい理由

自閉症や発達障害の人は人や物にぶつかりやすいという特徴が見られる事が有ります。

歩いていて壁や柱にぶつかる、ちょっとした段差や傾斜で躓く(つまづく)、ドアや戸にぶつかる、棚などに頭をぶつける、人とすれ違う際にぶつかるなどです。

人によっては斜めに歩いてしまいぶつかったり、ドアの取っ手を握り損ねてドアにぶつかってしまう事も見られます。

もちろん全ての自閉症や発達障害の子供にこのような特徴があるのではありません。中には多動で走り回っている際に、別の子供が飛び出しても、ヒラリと華麗に身をかわしていくような運動神経の良い子供もいます。

人や物にぶつかることが多いと、怪我が多くなってしまい、痣や生傷が耐えないことも多いです。

では、歩いたり走ったりしている際に、人や物にぶつかってしまう子供は、どのような理由でぶつかるのでしょうか。色々な理由を調べてまとめてみました。

自閉症や発達障害の人が人や物にぶつかる理由

自閉症や発達障害の人がぶつかりやすい理由には、体の感覚、距離感、視野、危険認識、経験不足、感覚や刺激を求めるため、など様々な要因が考えられます。

適切な体の動かし方がわからない

自閉症の人は体の動かし方がぎこちなかったり、手先が不器用である事があります。これは適切な体の動かし方が分からない為とされています。

自閉症者で多くの本を出版している東田直樹さんは著書『自閉症の僕が跳びはねる理由』の中で、「手や足の動きがぎこちないのはどうしてですか?」という問いに対して「手足がどうなっているのかわからない。どうやったら自分の思い通りに動くのかもわからない」という旨を記しており、自閉症の人は自分の体のイメージが難しい事を示しています。

体の動かし方が分からない理由には、体の筋肉や関節の動きに関係する『固有感覚』の過敏や鈍麻が関係しているとされています。また、全身を使った粗大運動が不器用であったり、複数の部位を同時に使うことが困難となる『発達性協調運動障害』という障害もあります。

これらの理由により適切に体を動かすことが難しいと、自分のイメージと実際の体の動きがかけ離れてしまい、結果として物などにぶつかることが多くなります。

身体の部位や位置が分からない

自閉症の特徴として、身体の位置が分からないという事があります。体の位置が分からないと手や足がどの位置にあるのか理解できず、躓いたりぶつけたりしてしまいます。

体の位置が分からない理由には、固有感覚の影響や、体のイメージ(ボディイメージ)が出来ないことなどがあります。

通常の人は自分の体の位置が分かる為、暗闇でも鼻に手を当てたり膝などを触ることができます。しかし、自分の体のイメージが出来ない人は、動かしている手や触ろうとする部位を目で追って確認するため、暗闇だと思ったところを触れないことが多いです。

体の位置が分からないと物を落としたり、物を置くのが不得意なことが見られ、ドアや戸などで手を伸ばしてもノブや取っ手をつかむことが出来ずぶつかってしまうことがあります。

真っ直ぐに歩くことが出来ない

様々な理由から真っ直ぐに歩くことが出来ないと、人や物にぶつかってしまう事も多くなります。

真っ直ぐに歩くことが出来ない理由も様々有りますが、既に記した「体の動かし方が分からない」ことや、体幹や筋肉の発達が遅い、足の感覚過敏やこだわりから真っ直ぐに歩けない、視線が正面を向いていない、平衡感覚の過敏や鈍麻などからバランス感覚が悪いという事もあります。

自閉症の特徴として見られる「つま先立ち」は体が前傾姿勢になるため、走り出した際などに動きが斜めになったり、斜めに移動してしまったり、足がもつれて転ぶ原因にもなります。

関連ページ
つま先立ちとつま先歩きをする| 発達障害-自閉症.net

他人が避けると思っている

自分の子供が店内の通路や道を歩いている際、すれ違う人にぶつかってしまったり、ぶつかりそうになり、とっさに声をかけたり手を引いたりする事も多いと思います。

自閉症や発達障害の人は、状況の判断や対人関係の理解などが難しい事があります。そのため、相手が避けるだろうと思って自分が避けなかったり、相手の表情や動きなどから避ける動作の予想が出来ない事もあります。

場合によっては自分が避けなければいけないという事自体を理解していない事も考えられます。特に子供の場合は相手側が気を使って避けてくれることが多いため、自分が避けなくてはいけないとう経験が少なくなります。

子供のうちはすれ違う人とぶつかってしまっても許してもらえますが、ある程度の年齢になると相手から変に思われたり注意を受けてしまう事もあるので気をつける必要があります。

また、自分より小さい子供や高齢者に対しては道を譲ってあげなくてはいけないという事を覚える必要も有ります。

急な反応が出来ない

健常者は、何かにぶつかりそうな場合にはとっさに判断して立ち止まったり、避けたりすることが出来ます。

しかし、自閉症の人の場合はとっさの判断が苦手であったり、判断をしてもその行動に移すことが難しい場合があります。

体の感覚や反応などの問題で、「避ける動作を取ろう」と思っていても、とっさの判断で適切に体を動かすのが出来ないという事もあります。

また、子供の特徴として、急に走り出すことは出来ても、急に止まる事が難しい事もあります。

実際の動きとイメージが合わない

相手や物を意識し避けようと動いても、思っていた動きと実際の動作が合わず、ぶつかってしまう事もあります。

実際の動きとイメージが合わない理由には、空間認識力の問題から自分と対象物の正確な距離がわからない、自分の体がイメージ通りに動かないなどがあります。

また情報の捕らえ方の問題から、そもそもの距離感や動きの速度などの認識がズレてしまうことでイメージ自体が間違っており、結果として自分の動きと合わない場合もあります。

予想が出来ない

自閉症の人は今後の動きや未来の予測をする事がとても苦手です。

健常者ですと歩道などで対向人が見えたら「このまま行くとぶつかる」と予想し、予めどちらかに避けたり、広いところで立ち止まってすれ違ったりすることが出来ます。しかし、今後の動きの予想が出来ないと、どのように動けば良いのかも分からずぶつかる直前まで行動を取れない事もあります。

人や物とぶつかった経験が無い

健常者でしたら、人や物とぶつかると痛い事や、場合によっては怪我をしたり、転んでしまうというのが理解できます。これは様々な経験から人にぶつかると痛い、壁や柱にぶつかるとタンコブができたり痣になるという事を理解しているからです。

人や物にぶつかった経験がないと、ぶつかってしまうとどうなるのかという事がわかりません。ましてや、ぶつかると転んだり怪我をしたりするというところまで理解も出来ません。

車や自転車が来ても避けない子供は、衝突したりぶつかると痛い事や大怪我に繋がることを理解していないことが考えられます。

自分では大丈夫な距離だと思っている

空間認識の問題などから、周囲の人から見るとぶつかってしまうような距離でも、本人の中では「まだ大丈夫」と思っている事があります。そのため、直前になっても避けようとしなかったり、逆に近寄りすぎてしまい避ける動作が間に合わなくなってしまう事もあります。

また、自分では大丈夫な距離と言うのが、数センチ程度ととても短いことがあります。普通の人だと物を避ける場合には最低でも20cm程度を空けますし、人を避ける場合にはさらに距離を取ると思いますが、自閉症や発達障害の人だとその避ける距離がわずか数センチ程度と考えている事もあります。

人を避ける際に相手にぶつからなくても、数センチの距離まで迫ってから避ける行動を取ると、相手はビックリしたり不快に思ったりする事も有ると思います。

なお、人にはパーソナルスペースと呼ばれる、他人が近寄ってきても不快に思わない距離感と言うものがあります。パーソナルスペースは相手の親しさにより距離感が変わりますが、自閉症や発達障害の人は対人関係の理解が難しいため、この距離感を気にせず近寄ってしまう傾向があります。

関連ページ
自閉症や発達障害の人は他人との距離感が近い| 発達障害-自閉症.net

ギリギリのスリルを味わっている

感覚刺激ではないですが、子供の遊びとしてスリルを味わって楽しむことをする場合があります。例えば机のギリギリに物を置いたり、不安定なものを高く積み上げたりなどです。

これは「新奇探求性」や「新奇追求性」などと呼ばれ、新しいものや今まで経験したことがない事を求めることで、危険なことやスリルがある事を好みます。ADHDの人に見られやすい特徴とも言われています。

健常者でしたら「スポーツをする」「ゲームをする」「車やバイクや自転車を運転する」などで新たなスリルや刺激を求めることができます。しかし、経験の少ない自閉症や発達障害の子供は、スリルを求める方法がわからないため、今まで経験した「ギリギリで避ける」「高いところに登る」などの行動からスリルを求めている事もあります。

空間認識や距離感が鈍い

空間の認識能力や距離感を掴む力が弱いと、物や人にぶつかってしまう事が多くなります。

空間の認識には「距離」「方向」「高さ」「大きさ」「広さ」など様々な要素が関係します。視覚からの情報の鈍麻や、自分と対象物との距離感の理解、自分の動くスピードの把握、状況の判断などに困難が生じると空間認識力が劣ってしまい、人や物にぶつかることが多くなります。

また、子供は遠くにある物に対しての認識が大人の1.5倍ぐらいの距離で感じているという研究もあり、大人と子供での距離感自体が違う事もあります。

関連ページ
自閉症と空間認識・空間認知能力| 発達障害-自閉症.net

視野が狭い

空間認識や距離感に問題が無くても視野が狭いという事があります。

視野が狭いと歩いている方向は見えていても、足元が見えず段差などに躓いてしまったり、横から来た人にぶつかってしまう事もあります。また、立ち上がった際に頭上の棚などに頭をぶつけてしまう事にも繋がります。

子供の場合は遊びに集中したり、感情が高まると特に視野が狭くなってしまい、自分の興味のある物しか見えなくなってしまうので注意が必要となります。

関連ページ
追従性眼球運動とは | 発達障害-自閉症.net

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跳躍性眼球運動(衝動性眼球運動)とは | 発達障害-自閉症.net

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自閉症と斜視・横目| 発達障害-自閉症.net

視野からの情報を処理できていない

視野が狭い意外にも、認識力の乏しさから視野に入っているにもかかわらず、人や物などの情報を認識できていない事もあります。

逆に視覚過敏の特徴を持っていると目に入った情報すべてに意識が向いてしまうことがあります。

健常者であれば無意識に必要な情報と不要な情報を取捨選択していますが、視覚の過敏と情報の捕らえ方の問題から不要な情報まで注意が向き、重要な情報を漏らしてしまったり情報を取り入れすぎて処理が間に合わずぶつかるという事があります。

相手の全体を見ていない

発達障害の特徴として、細かい点に注目してしまったり、相手の顔や目線を見ることが苦手だという場合があります。

細かい点に注目してしまうと、相手の動きなどが分からずにぶつかってしまったり、相手の移動する方向を予測するのが難しくなってしまいます。

また、人は動く際に移動先に視線をずらしたり、対向者とアイコンタクトを取る場合があります。人の顔や目線を見ることが苦手な場合、この合図を感じ取ることが出来なくなってぶつかってしまったり、相手と同じ方向に移動してしまうと言うことがあります。

人と顔や視線を合わせるのが苦手な子供の場合、相手の足元を見ていることが多く、相手の存在は認識していても、相手がどう動くかを足の動きで判断しているので、反応が遅れてしまう場合も多いです。

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自閉症や発達障害は表情や感情を読み取れない| 発達障害-自閉症.net

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自閉症や発達障害は視線や目が合わない| 発達障害-自閉症.net

注意力が無い

子供は注意力が散漫である事が多く、好奇心から周囲の状況が気になってしまい注意力がそちらに向いてしまったり、他の事に気を取られてしまったりする事があります。

特に気になる事があると気持ちがそこ一点に集中してしまい、周囲の声や状況が耳や目に入らなくなる事も良く見られます。

また、ADHD(注意欠陥・多動性障害)などの場合は、不注意の特徴を持つことから、余計に注意力が散漫になってしまいます。

突発的・衝動的に動いてしまう

子供の場合は気になったもの、目に入ったものに興味が向くと、周囲の状況を見ずに突発的に動いてしまうことがあります。特に対象物に向かって急に走り出したりすることが多く、子供の交通事故に飛び出しが多いのもこれが理由の一つとなっています。

また、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の特徴として、衝動性という突然行動を取ってしまうという特徴があり、この衝動性により急に動き出してしまうことで人や物にぶつかってしまうこともあります。

感覚刺激や感覚遊や自傷行為として

自閉症の子供の中には感覚刺激が欲しい為に壁などに頭をぶつけたり、感覚遊びとして壁や柱を叩いたり、体をこすり付けたりすることがあります。

自傷行為が見られる人の場合は、意図的に壁や床などに頭を打ちつけたり、地面にひっくり返って体を打ち付ける行為をする事もあります。自傷行為が酷い際には、腫れてしまったり出血するほど酷く打ちつける事もあるので、場合によっては安全を確保する必要があります。

感覚刺激や感覚遊びで行っている場合には、それに換わる別の刺激や感覚を与えてあげる必要があります。

関連ページ
自閉症の感覚刺激や感覚遊び| 発達障害-自閉症.net

関連ページ
自傷行為の原因と対処法| 発達障害-自閉症.net

まとめ

自閉症や発達障害の子供が人や物とぶつかってしまうのにも様々理由があり、決してわざとぶつかっているわけではありません。(自傷行為や感覚遊びの場合を除きますが)

本人も人や物とぶつかってしまう事に困っていたり、なぜそうなってしまうのか悩んでいる場合も有ると思います。スムーズに避けるのが難しい場合には「歩く速度を弱める」「立ち止まる」と言った対処方法を教えてあげましょう。

また、人や物にぶつかってしまうことが多い場合には、体の動作や日常生活においても様々な問題点や苦手な部分が見られると思います。

まずは、子供本人が苦手としている部分を補い、距離感の把握や、体の動かし方のトレーニング、ボディイメージの向上、安全な距離の把握や危険認識などの練習を行い、経験と自信をつけてあげると良いでしょう。

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