自閉症や発達障害と記憶力の良い悪いについて

 

自閉症スペクトラムや発達障害と記憶力の良い悪いについて

自閉症スペクトラムなどの発達障害の人は記憶力が低いと思われがちです。実際に自閉症などの人は知能指数(IQ)が低かったり、会話や文字の読み書きや計算が出来ない事が多いです。

しかし自閉症などの発達障害の人にも様々な特徴や能力があり、高機能自閉症やアスペルガー症候群など知的障害の無い自閉症の人も存在します。また、発達障害でも学習障害やADHD(注意欠陥・多動性障害)などの人は知的障害は見られず、記憶力などにも大きな問題は見られません。

では、自閉症スペクトラムなどの発達障害の人達と記憶力について、どのような関係が有るのか調べてみました。

記憶力とは

記憶力とは物事について忘れずに覚えておき、必要なときにその情報を取り出せる事やその能力を言います。記憶力は人それぞれで、知能指数の高さ、年齢、学習能力、それぞれの個性や特性などによって異なります。

記憶力には「感覚記憶」「短期記憶」「長期記憶」「ワーキングメモリ」などが有ります。発達障害の記憶力には、短時間の間記憶する「短期記憶」、長時間記憶する「長期記憶」と、短い時間の間に記憶をしながら動作や行動を行う「ワーキングメモリ」が影響していると考えられています。

記憶力の悪さ

自閉症スペクトラムや発達障害の人の記憶力が悪いというのはいくつかが考えられます。


脳機能の影響

自閉症や発達障害は先天的な脳機能または中枢神経の障害により発生していると考えられています。そのために、物事を記憶している脳の記憶領域にも何らかの影響が出ている可能性は有ります。

知能指数(IQ)や学習能力が低い

発達障害の中でも重度から中度の知的障害を持っており、知能指数や学習能力が低い場合には、記憶力もそれに伴い低くなります。これは、知能指数と記憶力にはある程度の相関関係が有るため、知能指数が下がると記憶力も下がってしまう傾向にあるからです。

記憶領域が狭い

人が物事を記憶できる容量は人により様々ですが、上限が決まっています。特に発達障害の人は短期記憶の領域とワーキングメモリの領域が狭いと言われており、一度に沢山のことを覚えられなかったり、覚えても直ぐに忘れてしまうという事が有ります。

短期記憶やワーキングメモリは、様々なことを学習したり適切なトレーニングを行うことで、ある程度能力を伸ばす事も出来ます。

記憶を引き出せない

記憶自体をしていても、適切にその記憶を引き出せなかったりすることもあると思います。また、自閉症の特徴として「コミュニケーション能力の困難」と言うものが有ります。記憶を引き出せても自分で表現をしたり相手に伝えることができないため覚えていないものだと思われてしまう事も考えられます。

記憶力の良さ

逆に、自閉症スペクトラムや発達障害の人が記憶力が良いと思われる理由も考えてみます。

興味のある物ごとに集中する

自閉症や発達障害の人は興味のある物事に極端に集中したりこだわったりする事が有ります。興味のある物事に対してはとても集中するので覚えやすかったり、毎日同じ事を繰り返し行ったりするため記憶が何度も復習されて忘れにくくなると考えられます。

情報の取捨選択が苦手

自閉症の特徴には「聴覚過敏」や「人ごみが苦手」という特徴が有ります。これらの特徴の原因の一つには「音の聞き分けが出来ず全ての音が耳に入ってきてしまう」「人が多い場所やきらびやかな場所は全ての光景が目に入ってきてしまう」というものが有ります。

自閉症などの人達は情報の取捨選択が苦手であったり、そもそも取捨選択が出来ないという事があります。そのため全ての情報が入ってきてしまい、普通の人では覚える必要が無い情報まで脳に記憶されるためだと思います。

関連ページ
音が苦手(聴覚過敏)- 自閉症と発達障害の特徴・特性 | 発達障害-自閉症.net

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人ごみが苦手 – 自閉症と発達障害の特徴・特性 | 発達障害-自閉症.net

記憶を忘れることが出来ない

特殊な記憶能力を持っている人は、記憶を忘れたくても忘れることが出来ない事も有るようです。さらに、記憶された事柄は時系列ではないことが多く、急に昔の記憶が出てきたり、逆に今の出来事を思い出せなかったりする事が有ります。特徴的なものに「フラッシュバック」と「タイムスリップ現象」と言うものが有ります。

フラッシュバックやタイムスリップ現象

自閉症の人などは記憶が不意によみがえる事が有り、急に良い事や楽しい事を思い出して笑い出す、逆に嫌な事を思い出して落ち込んだりパニックになったりする事があります。

フラッシュバックとは、過去にトラウマとなるようなとても強い体験をした場合に、後日その時の記憶が鮮明に思い出される現象です。

タイムスリップ現象とは、自閉症や発達障害の人は時間の流れと言う概念の理解が難しく、昔に有った出来事でもたった今起こった出来事だと思い込んでしまう現象です。

関連ページ
フラッシュバックやタイムスリップ現象- 自閉症と発達障害の特徴・特性 | 発達障害-自閉症.net

また、一つのことを思い出すとそれに関連する沢山の記憶が同時に引き出され、自分の中では処理をする事ができなくなり、落ち着かなくなったりパニックになってしまう事も有るようです。

自閉症や発達障害と記憶力の発揮される場面

自閉症の人は時折、驚異的な記憶力を見せることが有ります。これは全ての事柄に対して発揮できるわけではありませんが、本人が強い興味を示す物事や得意な物事に対して見られます。

文字

文字に対して強い記憶力を見せる場合「読んだ本の内容を覚えることが出来る」「見た文章を一瞬で覚える」等が有ります。

私が係わったことのある自閉症の人に、紙や黒板などに書かれた文章を一瞬で覚えてしまう人がいました。この人は覚えた文章をそのまま言うのではなく、逆から文章を読んだり、逆から書き出したりすることができました。

私たちは文章を覚えるときは読んで頭に入れることが一般的ですが、この人は「映像記憶」と呼ばれる、目に入ったものを映像で記憶してしまう能力を持っている感じでした。

会話や言葉

会話の内容を一つも間違わずに覚えてしまうこともよく見られる特徴です。会話は「お母さんやお友達と会話したこと」「先生と話したこと」から「アニメやドラマの台詞」「CMのフレーズ」など様々なものがあります。

特に怒られた時やきつく注意を受けたときの内容は記憶に残るようで、「○○しなきゃ駄目じゃない!」「うるさくしません」など、お母さんや学校の先生に怒られた内容を後になって一人で喋ったりする事も見られます。

覚えてしまった会話は時々独り言のように喋ることがあり、これを「遅延エコラリア(遅延性反響言語)」と呼びます。

関連ページ
言葉の鸚鵡返し(オウム返し)とエコラリア | 発達障害-自閉症.net
遅延性反響言語 …

数字や日付

数字や日付は自閉症の人が比較的好む情報のようで、様々な数字や日付に関する記憶を持つ人もよく見られます。

多いのは友達や知り合いの誕生日、電話番号、車のナンバー、自分の中で印象に残ったことのある日を覚えるなどです。誕生日を覚える人は割りと多く見られる感じで、乗り物などが好きな子供などは車のナンバーや電車の型番などを覚えることが多いようです。

自分に関する日付を覚える子供は「3年生のときの遠足っていつ?」と尋ねると、数年前の事にもかかわらず「○月△日だよ」とすぐに答える事ができます。

数字に関する記憶力が良いからといっても、簡単な足し算引き算が出来なかったり、20程度までの数しか理解していない事もあるので、数字という概念では理解していないことも多いです。

画像や映像

画像や映像に関する記憶力を持つ自閉症の人も多く、映像記憶などにより一度目にした風景などを後になってから細部まで絵などで描きだす事ができる人もいます。
有名な人には自閉症で鉄道画家の福島尚さん、自閉症ではありませんが知的障害を持つ画家の山下清さんなどがいます。

また、学校で使う顔写真などで、人の顔を見せず写真の背景の一部を見せるだけで「だれだれさんの写真」など言い当てることが出来る人などもいます。

音楽

音楽に関する記憶力が高い人もおり、一度耳にした曲や音楽を楽譜などを見ずにピアノなどで弾く事ができる人もいます。

この特徴を持つ人にも何人か係わった事があり、聴いた曲を実際のピアノやスマホ・タブレットなどの音楽アプリで、相対的に音を拾って所謂「耳コピー」をして実際の曲に仕上げていました。

中には単音のメロディーだけでなく、同時に音を奏でる和音まで聴きとって演奏する人もいたので驚いた事があります。

鉄道や車種

男の子や男性は鉄道や車などの乗り物が大好きなこともあり、路線や車種や型番などを覚える能力を持っている事が有ります。
鉄道の場合だと路線名や駅名などを正しい順番通りに言えたり、車の場合だとメーカーや車種などを細かく覚えたりします。

国名や地名

地理に関する記憶に優れた人もおり、国名を100以上も言えたり、沢山の地名などを覚えている事があります。国名だと視覚から記憶しやすい国旗とセットで覚えていることが多く見られます。地名では日本の都道府県を全部言えたり、主要な市区町村を覚えていたりします。

また地理の記憶に優れている人は、単純に国名や地名だけでなく、おおよその位置関係なども覚えていることが多いです。

記憶など特定の分野で高い能力を発揮する症状

記憶や興味などで特定の分野において、高い能力を発揮する人々もいます。
有名なものには「サヴァン症候群」「ギフテッド」「タレンテッド」などです。

サヴァン症候群

サヴァン症候群(savant syndrome)とは自閉症や発達障害や知的障害者の中で、ごく稀に特定の分野への優れた記憶力や能力を発揮する人を言います。

主な特徴には「一度読んだ本の内容を覚える」「映像記憶が出来る」「非常に大きな数字を暗算できる」「複数の言語を理解できる」「任意の日付の曜日を言うことができる」などが有ります。

関連ページ
サヴァン症候群とは | 発達障害-自閉症.net

ギフテッドおよびタレンテッド

ギフテッドとは先天的に高度な知的能力を持っている子供で、アメリカでは「知性、創造性、芸術、リーダシップ、あるいは特定の学術分野において高い潜在能力を示し、また、そうした能力をフルに開発するには通常の学校教育にはない支援や活動を必要とする子供、生徒、若者」と定義されています。

ギフテッドとは主に学術的な才能を持つ人をさし、タレンテッドは芸術的な才能を持つ人をさす言葉として利用されています。

アメリカ合衆国ではギフテッドに対し興味を持つ分野に対し、伸ばして行けるような適切な教育(GATE:Gifted and Talented Education)を行っています。教育方法も先の内容を早く学べたり飛び級できたりするものと、興味のある分野を時間をかけて深く学べるものが有ります。

まとめ

自閉症や発達障害の人の中でも記憶力が優れていたり、興味のある物ごとには非常に強い興味を持ち様々なことを覚えてしまう場合が有ります。今は特に記憶力が優れていなくても、何か興味を持つことで急に様々なことを覚えたりする事も有ります。

自閉症や発達障害の子供も特別な能力を持つ場合には、その分野を伸ばしてあげることで、自分の知識や自身に繋がるほか、社会に出た際の大きな武器になると思います。
短期記憶やワーキングメモリは、トレーニングにより、ある程度能力を高めることが出来るので、苦手な分野を強化していく事も大切です。

記憶力が良くてもそれを適切に使うのが難しい場合もあるので、周囲の人達がただし方向へとフォローすることが重要となります。

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