障害児や障害者への身体拘束や行動制限について

   2018/03/21

障害児や障害者への身体拘束や行動制限について

障害者や障害児が「問題行動」や「強度行動障害」などにより他の人に危害を加えたり、物品を破壊したり、自分自身を傷つけてしまう場合などに、本人や周囲の人の安全を確保する為ににやむを得ず身体を拘束したり、別室に隔離して施錠を行う事も有ると思います。

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基本的にこのような行動は虐待ととらわれたり、人権侵害ではないかと見られる事も有るかと思います。しかし、実際の現場では身体拘束や行動制限をとらざるを得ない事も多々有るはずです。

ではどのような場合に身体拘束や行動制限を行ってよいのか。また、それらの行為を行った場合にはどのような対処方法が必要なのかを調べてまとめてみました。

身体拘束や行動制限とは

身体拘束とは身体を縛ったり固定するなどして、体の自由を奪うことを言います。行動制限とは個室に閉じ込めたりして行動の範囲を狭めてしまうことを言います。

基本的に身体の拘束が出来るのは、犯罪者を確保する場合、刑罰の執行、医療時のやむを得ない場合などに限られています。

福祉の分野では「椅子やベッドに体を縛り付ける」「叩いたり引っ掻いたりしないように手に手袋やミトンをつける」「衣服を脱がないよう鍵付きの服やつなぎなどを着用させる」「室内に鍵をかけ閉じ込め隔離する」「必要以上に向精神薬や睡眠薬などを投与する」「ベッドを柵で覆う」などが身体拘束や行動制限に該当します。

身体拘束の法的定義

身体拘束や行動制限についてを記載している法律には「障害者自立支援法(廃止)」「障害者虐待防止法」などが有ります。

障害者自立支援法

障害者自立支援法では第二十八条(身体拘束等の禁止)において以下のように記載されました。

第二十八条  療養介護事業者は、療養介護の提供に当たっては、利用者又は他の利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下「身体拘束等」という。)を行ってはならない。
2  療養介護事業者は、やむを得ず身体拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録しなければならない。

障害者虐待防止法

平成24年10月1日に障害者虐待防止法(障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)が施行されました。この法律では障害者への虐待の禁止、虐待の早期発見や予防などが規定されており、身体拘束は虐待に該当すると記載されています。
なお、18歳未満の障害児の虐待については児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)により、虐待の防止や保護などが規定されています。

保護者(養護物)による虐待

障害者虐待防止法の第二条6項の1イにおいて「障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること。」

障害福祉施設職員等による虐待

第二条7項の1において「障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること。 」

つまり障害者虐待防止法においては、障害福祉施設の職員からの身体拘束は勿論のこと、両親や兄弟など家族からの身体拘束も禁止されています。なお、学校や保育所や幼稚園、病院などの医療施設における身体拘束は、それぞれの施設における法律などで定義されています。

身体拘束や行動制限を行う場合の条件

法律では身体拘束や行動の制限の禁止をうたっていますが、現状本人や周囲の人に危険が及ぶ場合は、身体の拘束とまではいかないものの、行動制限に近い行為を行わなければならない事も有ります。

原則的に身体拘束は虐待に該当するため行うことは出来ません。しかし、やむを得ない場合には以下の法律に基づいた基準に則り実施する事も可能です。

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業の設備及び運営に関する基準の第二十八条(身体拘束等の禁止)

『1.療養介護事業者は、療養介護の提供に当たっては、利用者又は他の利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下「身体拘束等」という。)を行ってはならない。 』

『2.療養介護事業者は、やむを得ず身体拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録しなければならない。 』と規定されています。

厚生労働省では障害者への虐待防止という面から「障害者福祉施設・事業所における障害者虐待の防止と対応の手引き」という資料を公開しています。

この資料では「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件全てに該当する場合に『やむを得ず身体拘束を行う場合の3要件』として身体の拘束を行うことが可能であると見解を出しています。

切迫性

切迫性とは、本人または他の利用者の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高い場合をいいます。

これは身体の拘束を行った悪影響を考慮しても、それ以上に本人や周囲の人への身体や生命の危機にさらされると想定できる場合のみとなります。

非代替性

非代替性とは、身体を拘束する以外の他の方法が無いことで、拘束以外に安全を確保する手段が無い場合のみに適用されます。

拘束する際には本人に対して最も制限が少ない方法を取らねばならず、例えば手だけを押さえればよい場合に全身を拘束するなど必要以上の拘束をしてはいけません。

一時性

一時性とは、身体を拘束するのが一時的な手段であることで、身体を拘束する期間が一番短いものとしなければなりません。

拘束していれば手がかからずおとなしくていいや、という考えで必要以上に拘束をすることは決して行ってはならず、拘束される時間は1秒でも短くなくてはいけません。

なお、命に関わるような治療を行う際に治療台へ固定する場合、やむを得ず車椅子やバギーのまま車で移動する場合の上半身の固定などは、他の方法や安全などを十分に検討した上で「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件を満たし、さらには本人または保護者等の同意を得た場合は身体拘束でも例外的に虐待に当たらないとされています。

施設や事業所として身体拘束を行う場合

施設や事業所などで身体拘束や行動制限を行う場合には様々な取り決めや対応方法を検討する必要が有ります。
組織として身体拘束を行うことを理解しておかないと、職員の独断で判断して身体拘束を行ってしまい、結果として虐待に繋がる恐れも有ります。

実際に身体拘束を行う場合

身体拘束を行う場合は「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件を必ず満たす必要が有ります。

事前の検討や準備

身体拘束を行う可能性が有る場合には施設の組織として身体拘束を行う可能性があることを確認し、個別支援計画書に身体拘束を行う可能性を盛り込み本人または保護者に同意を得る必要が有ります。この際に市区町村などの行政や監督機関に事前に報告をする場合も有ります。

身体拘束実施後

実際に身体拘束を行った際には『身体拘束を行った状況』『拘束をした方法』『拘束を行っていた時間』を出来る限り詳細に記録し、後日本人や保護者に説明を行います。場合によっては市区町村などの行政や監督機関に提出する必要が有ります。

身体拘束を回避するために

身体拘束を行う前に身体拘束を行わない為の工夫や対策案を十分に検討しなければなりません。検討の際にはアセスメントやヒアリングで知りえた情報、普段の生活や活動状況からの推測、関係する支援者とグループとして検討する必要が有ります。

何かの理由で暴れ出す子供が居た場合には、まず身体拘束ではなく、なぜ暴れ出すのか行動を分析して原因を見つけ出す必要が有ります。そして、原因を見つけたらそれに対して何らかの対処方法を検討します。

音でパニックになり暴れ出す場合は、静かな環境を用意する、ウルサイと感じたら避難できるスペースを確保する、耳栓やイヤーマフなどを用意するなどです。

身体拘束の指針

厚生労働省では『サービス提供事業所における虐待防止指針および身体拘束対応指針に関する検討』という資料も公表しています。

この資料では「身体拘束に関するガイドライン」「障害の有る人は拘束や隔離について同考えるか」「身体拘束・行動制限の廃止に向けた取り組み」「障害者施設へのアンケートによる身体拘束に関する調査結果」「行動制限や身体拘束を実施する際の行動支援計画書のテンプレート」などが細かく掲載されています。

まとめ

無理やり体を押さえ込まれて何も思わない人などおりません。身体拘束はその場しのぎの一時的な対応にしかなりません。

もし身体拘束が必要となってしまった場合には「切迫性」「非代替性」「一時性」の3原則を再度確認し、施設全体として最も安全で最も負担の少ない方法を取ります。

まずは、身体拘束や行動制限を行わなければならなくなる他人への攻撃、自傷行為、物品の破壊、パニックなどに繋がる原因を解決していくことが重要になります。

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