自閉症とは
自閉症とは
自閉症(Autism)とは広汎性発達障害の一つで、「意思伝達などコミュニケーション能力の困難」「対人関係の困難」「物事への興味と感心が狭く特定の事にこだわる」などを特性とする先天的な脳機能障害です。
自閉症という名称から「引きこもり」「無口」「内気な性格」「うつ病」などと同様に思われる事が多いですが、自閉症は精神病や育て方や生活環境の問題ではなく、脳の機能障害が原因の発達障害です。
自閉症の定義
自閉症の定義には数種類のものが有りますが、どれもおおむね「社会性の困難」「コミュニケーションの困難」「想像力が乏しく特定の物事にこだわる」という3つの項目が挙げられます。
文部科学省の定義
文部科学省においては「自閉症とは、3歳位までに現れ、他人との社会的関係の形成の困難さ、言葉の発達の遅れ、興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害であり、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される」と定義されています。
精神障害の診断と統計マニュアルの定義
精神障害の診断と統計マニュアル(DMS)においては「コミュニケーションにおける質的な障害」「意思伝達の質的な障害」「行動・興味・活動のこだわり」の3つを診断基準としています。
ローナ・ウィングの定義
自閉症の研究者でイギリスの精神科医であるローナ・ウィングは自閉症の特徴と定義として「社会性の障害」「コミュニケーションの障害」「想像力(イマジネーション)の障害」を挙げており、この3つはウィングの三つ組みの障害と呼ばれています。
自閉症の種類
高機能自閉症
高機能自閉症は知能指数がIQ70以上(健常者のIQはおおよそ100)で、知的障害を伴わない自閉症としています。
高機能自閉症には「アスペルガー症候群」「サヴァン症候群」などの症状が含まれます。
低機能自閉症
低機能自閉症は知能指数が70以下で、軽度から重度の知的障害を伴っており、癲癇発作(てんかん)の発生や癲癇の脳波を持つ場合が多く見られます。
低機能自閉症には「カナー症候群」などの症状が含まれます。
また、発達具合の状態から「折れ線型自閉症」と呼ばれるものも有ります。
自閉症スペクトラムとは
自閉症は人により様々な特徴や特性があり、自閉傾向の重さや、重度の自閉症から知的障害を伴わないアスペルガー症候群まで知能レベルが人により異なります。
この状態を連続的に表現するための概念として「自閉症スペクトラム」という考え方が有ります。
スペクトラムとは連続体という意味で、虹などのようにそれぞれに色の違いなどは有るものの、その境目がハッキリしない場合に用いられる概念です。
自閉症の発生率と人数
自閉症者の国内人数
自閉症者の人口は統計方法により異なりますが、日本自閉症協会の発表によると日本国内には36万人の重度の自閉症者がいるとされ、高機能自閉症者を含めると120万人程度が自閉症者ではないかと考えられています。
自閉症の子供の人数
自閉症の子供の数は平成24年度文部科学省学校基本調査によると、特別支援学級に在籍している自閉症と情緒障害の子供の人数が小学校で48,757人、中学校で18,626人。通級(通常の学級に在籍しながら特別支援教育を受けること)に在籍している小学生が9,744人、中学生が1,530人となっています。
特別支援学校については知的障害児に含まれており、知的障害児として小学部で32,889人、中等部で25,482人、高等部で56,773人となっています。
自閉症の発生率
成人の発生率は国立精神・神経医療研究センターの資料によると平均で1.0%となっていますが、これには男女差があり、男性の発生率が1.8%、女性の発生率が0.2%と圧倒的に男性の方が高くなっています。
なお、発生率は女性のほうが低いですが、女性の自閉症者は男性に比べ重度の精神遅滞を示す傾向が有ります。
近年においては自閉症者の人数が増えているという報道も見られますが、自閉症の認知が広がった事と検査の範囲が広まったことにより、従来自閉症と診断されていなかった軽度の症状も含まれているからだと考えられています。
自閉症の原因
自閉症の原因は現在特定されていませんが、先天性の脳機能障害として多くの遺伝子が関係していると考えられています。
現在自閉症の原因として考えられているものには以下の項目が有ります。
しかし、必ずしも以下の項目が当てはまるわけではありません。
- 遺伝子の異常(SHANK3、CAPS2など)
- 遺伝子性疾患
- 染色体異常
- 中枢神経系の先天的異常
- 早産
- 父親の高齢
- 妊娠中の薬品や薬物の使用
- 疾病の影響
- 新生児脳症、てんかん性脳症
- 親が精神病や情動障害
自閉症の特徴
自閉症の大きな特徴には自閉症の定義にも記してあるように「社会性や対人関係構築の困難」「コミュニケーションの困難」「興味や関心を示すものが少なく、特定の物事にこだわる」と言うものが有ります。
社会性や対人関係構築の困難
自閉症の場合「相手の表情を読み取る」「相手の気持ちを思う」「場の雰囲気や空気を読めない」「目を合わせるのが難しく表情が乏しい」などの特徴が見られます。
相手の気持ちを汲み取るのが難しいため、相手と気持ちの共感や共有を行うことが出来ず、友達や仲間を作るのできない場合や、相手や他人に対し無関心であったり興味を持てない事も有ります。そのために、人とのかかわりを持ち、集団の中で生活するのが非常に困難となります。
コミュニケーションの困難
人と人とがコミュニケーションを取る上で最も重要なことに「会話」が有ります。しかし、自閉症の場合言葉に遅れや言葉自体が出ないことも多く見られ、「呼びかけても反応がない」「言葉が出ない」「返答がオウム返しになる」「長い言葉や文章が話せない」などの特徴が有ります。
また、相手からの問いかけを理解することができなかったり、理解できても適切な返答が思い浮かばないという事も有ります。
発語や会話の理解が出来ないと言葉のキャッチボールが行えなくなってしまい、コミュニケーションを取るのが難しくなってしまいます。
関連ページ
自閉症のコミュニケーションや意思表示方法 | 発達障害-自閉症.net
興味や関心を示すものが少なく、特定の物事にこだわる
自閉症の人は興味や関心を示すものが少ないですが、ごく一部の特定の物事にものすごい興味を示し、その物事に強い執着心やこだわりを持つという特徴が有ります。
興味を示すものは「玩具・電車・車」などの物として存在するものから、「時間・音・香り・位置・色・順番・動き」など感覚的なものまで人により様々です。
また、自閉症の大きな特徴として「常同行動」「繰り返し行動」と言うものがあり、手や頭を何度も振る、DVDや動画の同じ場面を何度も繰り返して再生する、同じ場所を行ったりきたりするなどの行動が見られます。
関連ページ
自閉症の常同行動とは | 発達障害-自閉症.net
自閉症の代表的な特徴
自閉症に見られる主な特長には以下のものが有ります。
- 物を並べる
ミニカーや色鉛筆などの物を一列に並べる行動。 - 自傷行為
自分の頭を叩いたり、腕を噛んだり、頭を打ち付ける、引っかいたりする自分を傷つける行動。 - 他害行為や他傷行為
他人を蹴ったり、引っかいたり、叩いたり、噛んだりと暴力的危害を与える行動。 - クレーン行動・クレーン現象
他人の手をとってクレーンのように操作し意思を示す行動。 - 手をひらひらさせる
手を顔の前などでひらひらさせその動きを見て楽しむ行動。 - ロッキング
頭・上半身・体全体を前後に動かす行動。 - 物事の同一性
物事の位置や形状などの変化を嫌がる。 - パニック
何らかの原因によりパニック状態になる。 - 儀式的行動
行動をパターン化したり、物事に順番や本人の中での決まり事がある。 - 感覚過敏
様々な感覚が敏感で、音に対して耳を押さえたり、触られる事を拒否したりする。 - 記憶力の高さ
数字、日にち、順番、ロゴや絵柄などの特定の物事に対し高い記憶力を持つ。 - 予定外の行動の困難
予定変更や経験したことの無い状況に陥るとパニックになったり動けなくなってしまう。 - 時間の概念
時間の概念や流れが理解できず、大昔の記憶なども今さっきの出来事のように思ってしまう(タイムスリップ現象)。 - 見通しやスケジュール
本人の中で見通しが立たなかったり、スケジュールが理解できないと極度の不安やパニックになる。 - 癲癇発作(てんかん)
自閉症者には癲癇発作を起こす場合があり、自閉症者の約半数に癲癇を引き起こす可能性のある脳波が見られる事があります。 - 一定の動きや回転する動きを好む
水の流れなど一定の動きや、扇風機やタイヤなど回転する動きを非常に好む。
自閉症の治療と療育
自閉症は先天的な脳機能障害である為、今現在根本的な治療法方はありません。
しかし、年齢と共に発達するため、低年齢からの本人に合った療育を取り入れて行くのが効果的です。
主な自閉症の療育には以下の物が有ります。
- 作業療法
- 言語聴覚療法
- 応用行動分析(ABA)
- TEACCH
- ソーシャルスキルトレーニング
- 発達支援センターや放課後等デイサービスへの通所