発達障害は複数の事や動作を同時に行う事ができない

   2018/08/05

発達障害は複数の事や動作を同時に行う事ができない

自閉症やアスペルガー症候群やADHDなどの発達障害の人は、その特性から複数のことを同時にこなすのが難しい事があります。代表的なものには、黒板の内容をノートに書き写す、電話を聞きながらメモを取る、縄跳びをする、人と会話をするなどです。

黒板をノートに取る場合には黒板を見て理解をしながら書きます。電話の場合は話を聞きながら要点をメモする必要があります。縄跳びは縄の動きを見ながら手を動かして縄を回し足で跳びます。人と話す場合には相手の話を聞いて理解をしながら返答をします。

このように私たちが日常生活で普通に行っているようなことでも、自閉症などの発達障害の子供には難しいということがあります。

逆にいうと1つのことには集中して行えるという特徴を持っていることも多く、会話などでは相手の話を聞いているだけ、自分が一方的に話すだけになってしまうことがあります。

また、行うことが複数あった場合に、どちらを優先して先に行えばよいのかがわからないという事もあります。

では、自閉症や発達障害の子供はどのような理由から複数のことを行うのが苦手なのでしょうか。

複数のことを同時に行うのが苦手な理由

身体の特性から

発達障害の子供は体の面でも様々な特性や特徴を持っています。例えば体の動きがぎこちなかったり、不器用であったりです。

感覚が必要以上に敏感になってしまう『感覚過敏』や、逆に感覚が鈍感となってしまう『感覚鈍磨』、『固有感覚』の異常から体の動かし方や自分の手足の位置が分からず、体の複数の部位を同時に動かすことが出来ないといった事があります。このような症状が顕著に見られると『協調性発達運動障害』という障害とされることもあります。

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体の複数の部位を同時に使う運動を『協調運動』といいます。協調運動には目と手を動かす「キャッチボール」「黒板をノートに書き写す」といった動き、手と足を動かす「縄跳び」「走り」「跳び箱」「鉄棒」、様々な部位を使う「ダンス」「体操」「水泳」などがあります。

体の様々な部分を同時に動かすことが出来ないと、上記のような運動だけでなく、服のボタンかけや文字書きやお箸で食べ物を挟むなど細かい動きにも影響が見られることがあります。

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また、黒板を見た後に手元のノートを描くのが困難だったり、本を読む際に文字を読み飛ばしたり読む場所が分からないといった場合には、「跳躍性眼球運動」や「追従性眼球運動」など目の動きが弱いといった場合も見られます。

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脳の処理能力の問題から

自閉症や発達障害は生まれつきの脳機能の障害が原因であるといわれています。このため脳の処理能力にも様々な影響がみられることがあります。

健常者は物事をやりながら考えたり、行動しながら学ぶといった事が出来ますが、発達障害の子供はこのようなことが苦手で、情報を取り入れて学ぶことと行動するのは別々に行ってます。

新たな物事に取り組ませようとしても、不安を感じたり失敗を恐れてなかなか取り組まないのもこれが理由の一つです。物事が不安な場合にはこれから何を行うのか、何をやれば良いのかの見通しをつけて理解する必要があります。

失敗を恐れる場合には、失敗したらどうなるのかという不安を取り除き、やることを理解して自分が成功するイメージを持たないと安心して行動に移すことが出来ません。

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行動から入ってしまう場合には、その場の思いつきだけで突発的に動いたり、目に入ったもの向かって急に走り出してしまうといった事があります。このような場合、周囲の情報などを取り入れることが出来ないため、人にぶつかってしまったり、周りの状況を見て判断するといった情報の取り入れや危険認識が出来ません。

発達障害の人が人の目を見て会話をする事が出来ないという理由にも、脳の処理能力の問題か関連することがあります。健常者が人と会話をするときは、相手の話を聞きながらも同時に顔の表情や目の動きなどを見て、相手の気持ちや様子を感じ取っています。

しかし、発達障害の人は話を聞くことに集中するため、相手の顔を見る余裕が無かったり、あえて視覚からの情報を遮断するために相手の顔から視線を外すことがあります。

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記憶の問題から

様々な行動をするためには、一時的にやることを覚えたり、見たことや聞いたことを記憶する必要があります。この一時的な記憶領域をワーキングメモリ(Working memory)といい「作業記憶」や「作動記憶」などと呼ばれることもあります。自閉症や発達障害の人は、このワーキングメモリ能力が弱いことが多く見られます。

ワーキングメモリは大きく分けて、耳から入る音声として記憶される「言語的な部分」と、目から入る「視覚的な部分」の2種類があります。

言語的な部分は会話などで使用され、相手が話したことを一時的に記憶し、それに対して適切な返答を探して答えるのに使われます。指示を受けた場合には受けた指示の内容をその行動を行うまで記憶しています。

視覚的な部分では、黒板に書かれた内容を見てノートに書き写すまでの間だけ記憶をしたり、飛んできたボールを認識をして避けたりキャッチをするための動作の間にボールの存在を記憶をするといった働きをしています。

一般的に健常者がワーキングメモリで記憶できる内容は3個か4個程度とされ、それ以上のものが増えると次々と忘れてしまったり、短期記憶や長期記憶などの別の記憶領域に情報を移すことで対応しています。

しかし、自閉症などの発達障害を持つ人の多くは、ワーキングメモリで記憶できることが難しかったり、記憶できる個数が少ないということが考えられています。

優先順位をつける事ができない

優先順位をつける事も発達障害の人は苦手です。行うことが複数あると、どれを優先してよいのか分からず混乱してしまったり、優先順位が低いものから行ってしまう事もあります。

複数の作業が有る場合、一般的には重要な事項から行ったり、締め切りが近いものから行います。何が重要なのかが分からない場合には、指示を出した人に「AとBの作業があるのですが、どちらからやれば良いですか?」など尋ねて指示を受けるでしょう。しかし、発達障害の人は何が重要なのかが理解できなかったり、時間的な概念の理解が乏しいこと、他人とのコミュニケーションが難しいなどから適切な優先順位をきめることが難しいのです。

また、1つの作業を行っている際に「これもやっておいて」といわれると、先に行っていた作業を忘れて、後から指示された内容を先に行ってしまうといったこともあります。

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好きな事や行いやすい方を優先してしまう

好きな事や取り掛かりが容易な方から優先してしまうということもあります。

健常者も好きな事ややり易いことからやり始めたくなるのですが、順序や優先度などを考えて、やらなくてはいけないことから取り組みます。

しかし、発達障害などの人の場合は、分かっていても好きな事から取り組んでしまい、結果として他のことが出来なかったり、他のことを忘れてしまうということがあります。

また、難しい事はやり方自体がわからなかったり、失敗を恐れるあまり取り組む気持ちになれないということもあります。

指示が理解できない

適切に指示が理解できないため、複数のことを行うのが難しい場合もあります。発達障害の人は指示においても複数のことを覚える事ができなかったり、複雑な指示を理解することが難しい事があります。

例えば「黒板に書いた内容をノートに写して欲しいので、黒板をよく見てください」といった指示を受けた場合に、前半部分を忘れてしまって「黒板をよく見てください」の部分しか覚えておらず、黒板を見つめるだけでノートを取ることが出来ないといった事があります。また、言い回しもくどいので、指示じたいが理解できない事もあります。

このような場合は「黒板を見てください」と「ノートに写してください」と2つに分けて指示が単純でわかりやすいようにしてあげる必要があります。

頭が混乱してしまう

自閉症などの発達障害の人は、1つの物事でも取り組むことが困難であったり、取り組むために非常に多くのエネルギーを使っています。

そのため1つのことでも精一杯の状態で、さらに別のことを行うように指示されると、混乱したりパニックになってしまう事があります。

頭が混乱してしまうと新しいことに取り組むだけでなく、今まで行っていたことが全て記憶から消えてしまったり、再度取り組むために物凄い気力を使う必要がでる事があります。

予め2つのことを行うのが困難だと分かっている場合には、1つのことを終わらせてから次のことに取り組む方が効果的です。

まとめ

自閉症などの発達障害のひとは、様々な理由から複数のことを同時に行うことを苦手としています。

動に移るなそのため複数のことを行う場合には、順序を決める、一つのことを終わらせてから次の行どの対策をとると効果的です。

記憶から抜けてしまう場合にはメモやタスクリストやToDoリストなどを作り、忘れてしまってもそこを見ればやることが思い出せるような構造化を行うのもよいでしょう。

また、各種ワーキングメモリの訓練で記憶能力の向上を行ったり、各種運動や感覚統合トレーニングなどで連携したからだの動かし方を練習するのも効果があります。

複数の物事を同時に行うのが苦手な場合でも、原因は人事に違ったり複数の要因が絡んでいることもあります。

まずは、子供の様子を見てどの面において苦労をしているのかを見極めて原因を見つけるのが必要となります。その際にこのページの内容が少しでも役に立てば幸いです。

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